ミニIPOは、事業シナジーが見込める大手事業会社への株式譲渡です。ただ、事業シナジーが見込めるというメリットは、同時に事業会社の色がつきやすいというデメリットと表裏一体でもあります。
「ファンド」に売るという選択肢
マンション修繕会社のC社の相手企業は住宅関連メーカーでした。C社はそれまでさまざまなメーカーの商品を扱っていましたが、親会社の意向によっては親会社の商品だけを使わなくてはいけない可能性もあったのです。これが、事業会社の色がつくという意味です。
こうしたデメリットを回避したいときには、ファンドに株式譲渡するという選択肢があります。
ファンドは、将来性のある会社の株式を取得して、成長にドライブをかけて会社の価値を高め、企業価値が高くなったところで株式を売却します。ファンド自身が事業を行っているわけではないので、事業会社にミニIPOするのとは違って買い手の色がつかず、事業の独立性が維持できます。
事業会社とのM&Aのようなシナジーは得られませんが、ファンドには経営のプロが揃っており、経営戦略や財務の面で適切な助言をもらえます。また、ファンドは事業会社とのネットワークを数多くもっているため、シナジーを得られる事業会社を紹介してもらえることもあります。
事業承継と成長戦略のハイブリッドを念頭に置くと、効果的な事業承継対策としてはIPOが○、事業会社へのミニIPOが◎、ファンドへの譲渡が○といったところでしょうか。
事業の独立性が高いファンドへの譲渡には、もうひとつ、魅力的な活用法があります。
事業承継の「踊り場」としてのファンドの活用です。
売上高100億円まで会社を成長させたある70歳の創業社長は、娘婿である副社長への事業承継を考えていました。副社長は体育会系出身でバリバリの営業マンだった方です。社長の右腕として、すでに申し分のない実績を出していました。
ただ、社長の目から見ると、経営者としては物足りないところがあったそうです。自分も年齢を重ねてきたので早く世代交代したいが、娘婿にすべて任せるのには不安が残るというジレンマを抱えていました。
思い切って大手事業会社へミニIPOすることも考えましたが、株式をすべて譲渡してしまうと、いずれ自分がオーナー経営者になる心づもりでいた娘婿はやる気を失いかねません。
そこで私はファンドへの譲渡をお勧めしました。株式の70%を譲渡して、残り30%をオーナー経営者側に残すという提案です。
このM&Aを機に、社長は会長に退き、娘婿が社長に昇格しました。筆頭株主のファンドからは、そのコネクションを活かして財務や営業部門のマネジャーにふさわしい人材を送り込んでもらいました。