ヒアリ侵入の経緯を調べるのは難しい
さらに毎日社説はヒアリ警戒の表現が強くなっていく。
「以前から日本への侵入が懸念されており、環境省は外来生物法に基づく『特定外来生物』に指定して警戒してきた。その一環として、全国20余りの主要な港や空港の周辺で年に1度、ヒアリなどがいないかどうかを目視で確認してきた」
「ただ、こうした対応で十分だったのか疑問は残る。ヒアリが日本に運ばれてきた経緯を調べ、水際対策の問題点を洗い出してもらいたい」
「ヒアリは、都市公園や住宅街の空き地など人間の生活圏に入り込む。台湾やマレーシア、中国南部など環太平洋諸国に分布を拡大中で、国際自然保護連合(IUCN)の世界の侵略的外来種ワースト100にもなった悪性度の高い外来種だ」
「特定外来生物」「世界の侵略的外来種ワースト100」という言葉に加え、毎日社説は「ヒアリが日本に運ばれてきた経緯を調べろ」とまで主張する。
いわゆる疫学調査のつもりでこう書いたのであろうが、ヒアリは中国や東南アジアの国々からコンテナの輸入品に紛れ込んできたわけだから調査は困難だろう。しかも大きな体を持つ生物ならまだしも、ミリ単位のアリの痕跡を追いかけるのはちょっと厳しいと思う。
全国紙で一番遅かった朝日の危機感
次に全国紙の中で一番遅くヒアリテーマの社説を掲載した朝日新聞を読んでみよう。
7月19日付の社説である。見出しは「ヒアリ対策 先例に学び定着阻止を」だ。これも毎日社説同様、冷静ではあるがどこかパッとしない。ただ毎日社説から1カ月近く経過し、その間、日本各地の港湾でヒアリが発見されているだけに危機感が増している。
「さまざまな手段を駆使して、ぜひ定着を阻止したい」
「南米原産のヒアリは1930年代に米国に侵入。21世紀に太平洋を越え、オーストラリアや中国、台湾でも繁殖している」
「モノや人の交流が盛んになるほど外来種は入りこみやすくなる。93年に広島県で見つかったアルゼンチンアリや、95年の大阪府のセアカゴケグモは大きな騒ぎになり、駆除も試みられたが、定着してしまった」
「ヒアリはこれらと比べても、想定される被害がけた違いに大きい。人を刺し、家畜を襲う。電化製品や通信設備の中に入り込み、故障の原因になる。米国では経済損失が年間7千億円にのぼるとの試算もある」
「けた違いに大きい被害」「人を刺す」「家畜を襲う」「電化製品や通信設備の故障の原因」「米国の経済損失は年間7千億円」……。こう強烈な表現を並べ立てられると、読者は不安に落ちるばかりである。