【丹羽】人材の育成にも力を入れておられるわけですが、そこに加わる人材の確保については、何か工夫されていることはありますか?
【中野里】寿司職人の求人といえばスポーツ新聞に3行広告を出すといった形が一般的だったのですが、私はそれを全て止めました。インターネットなど、カラー写真を交え、職場の雰囲気がよく伝わる形の広告に切り替えたのです。結果として採用率が40倍になったこともありました。飲食業界全般に人手不足が叫ばれていますが、玉寿司は実はほとんど困っていないのです。今回作った玉寿司大学も、新卒採用にはプラスに作用すると思いますし、技術コンクールの存在は、腕を磨きたい職人にもアピールできているはずです。
高校生の採用のため、マンガ冊子を制作
新人の職人の採用にあたっては、全国およそ80の水産高校に「マンガ」を配布しています。寿司職人になりたいという学生さんは、ちょっと面白い、変わった方も多いのですが、彼らを確実に一本釣りしていきたいという思いからです。「江戸前寿司の職人がいる寿司屋は100年たっても生き残る」。そうした考えを先代から受け継ぎました。職人がやりがいを持って働ける環境作りはこれからも一貫して押し進めていきたいですね。
【丹羽】離職率の低さのみならず、人材不足にも悩まされていないというのは、同業の方のみならず、一般企業の方からも学ぶべき点が多くあると思いました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
最後に
エグゼクティブコーチングを切り口に、さまざまな業種・企業の取り組みを見てきた本連載。「相談に訪れた時点で、問題の多くは解決している」という言い方もできる。たとえ悩みがあっても、それをこのような公開の場に赤裸々に提供し、解決・示唆を得る過程を公開しよう、という決断がある時点で、その経営者の姿勢は非常に前向きで、問題の解決に一歩を踏み出していると言えるからだ。
エグゼクティブコーチングはその歩みに並走し、当事者では気付かない道筋を示す存在だということも、連載を通じて読者にも体験いただけたのではないかと思う。エグゼクティブコーチングのセッションを誌上で再現してきた本連載は、今回でいったん最終回を迎える。改めて取材に協力いただいた経営者の皆さんに感謝し、連載を締めくくりたい。
国際基督教大学卒業、英国サセックス大学大学院修了後、野村総合研究所に入社。エグゼクティブコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業IDELEAに参画。2015年4月、人と社会を大切にする会社を増やすために、コンサルティング会社、Ideal Leaders株式会社を設立し、CHO (Chief Happiness Officer) に就任。上場企業の役員・ビジネスリーダーをクライアントとしたエグゼクティブコーチングの実績多数。社員のハピネス向上をミッションとするリーダー「CHO」を日本で広めることを目標としている。