リーマンショックは金融バブルの破綻であった。だが、アメリカ経済はすでに90年代後半から10年以上、きわめて大きな構造的歪みの中にある。その構造破綻が、私の恐れる最悪の事態である。景気の二番底、などという程度ではないだろう。

アメリカの経常収支の赤字が急速に拡大し始めたのは、97年だった。その後、拡大ペースはむしろ加速してきた。政府の財政も02年から赤字に転落し、そこへイラク戦争の軍費が加わって財政赤字の規模も急速に拡大してきていた。80年代前半にアメリカを悩ませた双子の赤字が、当時よりははるかに巨大な規模でアメリカを襲っているのである。そして、過剰消費と過剰政府支出をまかなうために、海外からの巨額の資金流入がなければ国の経済が立ちいかなくっている。

アメリカ経済はこの10年以上の間、構造的な無理を重ねに重ねてきたのである。ドルが国際基軸通貨であるからこそ可能な無理であった。そこにリーマンショックが起き、金融バブルが破裂した。その対策の巨額負担がさらにアメリカ経済とアメリカ政府にのしかかった。政府資金の調達の巨額さによりアメリカの資本市場はクレジットクランチを起こしかねない。その状況の中で、雇用は戦後最悪に向けて落ち込んでいる。

世界のカネがドルから静かに逃げ出そうとしているのも、不思議ではないのである。しかしそれは、アメリカへの資本流入の動きが薄れつつあることを意味する。そうなれば、アメリカ経済はさらに深刻な状況を迎える。その先には、ドルの暴落という激烈なハードランディングすらありうる。

地殻でも経済でも、構造的な無理はいつまでも続かない。巨大な歪みの累積は、大地震につながるだけである。