真面目だから生活保護を受けることに引け目

一方、Iさんは生活保護の申請をした場面が引っかかるといいます。

「竜一さんは2度、生活保護の申請をしていますが、断られるとあっさり引き下がりますよね。生活保護の財源は限られているわけですから、確かにそう簡単に認められるものではないでしょう。ですが、そこは引き下がってはいけません。粘り強く何度でも申請するのです。ところが竜一さんは2回で諦めた。これもある意味、真面目さゆえなのでしょう。実直に働いてきた人だから、国の金をもらって生活することに引け目や自分のふがいなさを感じただろうし、恥ずかしいという思いもあったと思う。ただ、この時の竜一さんは、そんなことを言っていられる状況ではない。福祉の職員に何度も交渉するのがつらいのであれば、担当のケアマネージャーに相談すべきだったと思います」

ケアマネージャーは中立公正が大原則であり、担当する利用者が、お金持ちであろうが、生活保護受給者であろうが、対応に差をつけることはほぼないといえます。実際、生活保護受給者を担当することも少なくなく、窮状の訴えには誠実に向き合い、事態の解決に知恵をしぼるはずだということです。

最後の最後は「措置入所」で“悲劇”を回避する

「役所の福祉の職員も同様です。対応は職員のタイプによって異なり、親身に話を聞いてくれる人もいれば、事務的な感じの人もいます。ただ、窮状を訴える側からすれば、要望は通りにくいというイメージがあるかもしれません。しかし、職員が最も避けたいのが担当地域での介護にまつわる心中や殺人、虐待といった事件。それが起きかねない事態には解決に向けて全力で対応するんです」(Sさん)

そして竜一さん親子が迎えたような進退窮まった事態にも救いは残っています。

それは、措置入所です。これは、経済的な理由などにより自宅で養護を受けることが難しくなった高齢者や障害者を、自治体(市町村)が法律に基づいて老人ホームや障害者支援施設などに入所させることを指します。

たとえば、安価な施設である特別養護老人ホームは需要が供給を大幅に上まわり、なかなか入所できません。しかし、措置入所が認められれば入所が可能になるのです。入所できれば、介護者は介護から解放され、新たな仕事を見つけて生活を立て直すことができる。『介護殺人』に書かれたような悲劇は防げるというわけです。

「措置入所は限界を迎えた家族に対して最後の最後に残された救済策であり、安易に適用されるものではありませんが、救済の手段は残されている。絶望することはないのです」とSさんは言葉に力を込めました。

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