未来に責任を持つ「5本の樹計画」
家を建てたら30年、40年、50年と住んでもらうわけです。そこで私は社員に「未来責任を持とう」と言いました。未来責任とは、住まいやその周辺の環境に配慮することです。99年に「環境未来宣言」を行い、まず他社に先駆けて複層ガラスを標準仕様にしました。2枚のガラスの間に空気の層をつくることによって、夏の熱気も冬の冷気もダイレクトに伝えない。それから住宅からのCO2の削減にも挑戦しました。
続いて、01年には壊された生態系を取り戻すために「5本の樹計画」をはじめました。日本のそれぞれの地域に、気候風土に合わせ自生している木があります。「3本は鳥のために、2本は蝶のために」を合い言葉に元々あった木を植えると姿を消していた昆虫が戻り、野鳥が帰ってきます。積水ハウスが分譲した住宅地の例では、14~20種類の昆虫が発見できます。分譲地の周りを調べてみると昆虫が数種類くらいしかいませんから、5本の樹計画がいかに生態系を守るかが分かってもらえると思います。05年には「サステナブル宣言」を発表し、再生可能エネルギーの積極採用などにいち早く取り組んできました。
こういう取り組みを真面目にやってきて、08年には業界で初めて環境省の「エコ・ファースト企業」に認定されました。同じ年に開かれた洞爺湖サミットでは、会場の一カ所を借り、家で使うエネルギーと太陽光発電などでつくるエネルギーの差がゼロになる「ゼロ・エミッションハウス」を建て、そこで首脳の奥さん方にお茶会を開いてもらいました。これが今話題の「ゼロ・エネルギー・ハウス」の原型となり、当社は業界トップの新築住宅の7割にまで普及させるまでになりました。
このように環境についてはかなり頑張ってきたつもりです。当初、環境に優れた住宅は日本でしか売れないと思っていましたが、やはりいいものは世界中に広げたい。どの国がいいだろうかと考えはじめたとき、真っ先に思い浮かんだのがオーストラリアの空港での体験です。外来種を持ち込ませないため、飛行機を降りるとすぐに靴の裏を消毒されます。環境に配慮する国だという強い印象があったのです。
とりあえずのスタートだったオーストラリアでの事業は、今では5000戸くらいになりました。なかには、元はスラム街だった場所を開発したケースもあります。暗くなると歩くのも物騒なところでした。そこに超高層ビルを建て、壁面緑化や空中庭園の設置によって見た目のよさと冷暖房にかかるエネルギーの削減を目指したのです。これが「Best Tall Building Worldwide」という超高層ビルの世界的な建築賞で一番になりました。
それをきっかけに積水ハウスの環境技術が認められ、オーストラリアでどんどんいい仕事ができるようになったのです。その後、シンガポールやアメリカ、さらには中国にも進出しています。