北海道の開拓精神、ファンドで後押し

銀行マンは、ただの金貸しではない。この思いも、基本に置く。頭取になった2012年4月、新企業を育て、雇用増につなげるための北洋イノベーションファンドを設立した。5億円の基金で、北海道らしく開拓精神にあふれた起業家を後押しする。低金利時代でも、大企業の資金需要は弱い。利益を貯めており、成熟した市場で投資には慎重だ。それなら融資より投資で、北海道の新たな強みを育てたい。始めのうちは、配当がなくてもいい。成長軌道に乗り、雇用を増やした後で構わない。

常務で営業推進統括本部長だったとき、相当の密度で「現場」を巡り、お客や自治体の首長らと接した。そのなかで、世代交代や事業承継がうまくいかずに廃業する会社が多い、との話が続く。聞いて、胸に灯が宿る。事業の承継が円滑にできるような支援こそ、自分たちの出番。どうしても企業がなくなっていくなら、新しく育てることが、銀行の役割の1つだ。そんな思いで、起業家支援ファンドの構想を温めてきた。

基金はこの6月、2倍の10億円に積み増した。議決権を持たない株式による出資が27件、計4億9542万円になったためだ。約8割の出資先が売り上げを増やし、雇用増にもつながった。

最大の課題は、全国でも速い人口減と少子高齢化だ。土地が広く、人口が集約していない北海道の難しさはあるが、重要なのは地域の強みを発揮した代表的な事例を育てることだ。分析すると、進むべき道は3つ。外国人も含めて道外からくる人々に向かってする商売、その地域だけでするローカル型、外へモノを売っていく輸出。なかでも強いのは3つ目の道だ、と考える。輸出を増やすために、企業が事業をどう変えていくか、外に売れる商品にするには何が必要か、物流の仕組みをどう築くか。そうした点に、銀行が支援する道もある。

最近、「環境が変わった。自由化が進み、変化のスピードが従来と違う。併せて、行動も変わるべきだ。昨日までのやり方を、どう変えていくかだ」と繰り返している。4月の全部店長会議でも、約300人にそう説いた。分科会でも議論させ、書記がまとめた全記録を読み、次の指示を出す。

その視線の先に、2017年に迎える創業100周年がある。そこへ向けて「北海道経済のために働きたい」を、もう1つの基本に置き続ける。「有基無壊」は、まだまだ続く。

北洋銀行頭取 石井純二(いしい・じゅんじ)
1951年、北海道生まれ。75年弘前大学人文学部経済学科卒業、北海道拓殖銀行入行。同行の破綻により、事業譲渡された北洋銀行に移る。業務推進部管理役、企画第二課長、法人推進部長を経て、04年札幌北洋ホールディングス取締役兼北洋銀行取締役、06年北洋銀行常務、10年副頭取。12年より現職。15年6月から第二地方銀行協会会長。
(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
関連記事
日本経済再生のカギは、地方の金融機関が握っている
「商店街キャッシュレス化で地方創生実現へ」浜川一郎 JCB代表取締役兼執行役員社長
過疎地で絶対的な強みを持つ地域一番店の発想
現場から離れ、立ち位置を変えてみよ
なぜ、雪国出身は粘り強く、温暖な国出身は温厚なのか?