非常事態のときこそ政治の真価が問われる

【塩田】橋下さんがいなくなった現在のおおさか維新をどう見ていますか。

【渡辺】橋下さんは政策・法律顧問という立場を通して事実上のオーナーではないでしょうか。おおさか維新の会はみんなの党同様、「何をやるか」の政策実現を重視する政党ですからね。

【塩田】安倍首相は通常国会の閉会日の6月1日に、17年4月実施予定だった消費税率の10%への引き上げを2年半後の19年10月まで延期することを決めました。

【渡辺】非常事態のときこそ政治体制の真価が問われます。熊本地震が発生し、一方で、経済は急激に需要が消えてなくなる事態ではないけど、リーマンショックを超える状態が進行しつつあるのは事実だと思います。国際商品市況を示すCRB指数(米英の商品取引所で取引されている先物取引価格から算出される国際商品指数)を見ているとわかります。原油価格が底を打ち、CRB指数も160まで下がったのが170とか180くらいになっていますが、リーマンショックのときでも、この指数は200を割っていなかった。ただならない異常事態が起こっても不思議ではない。じわじわときている危機で、それに気づかないといけない。安倍首相は当然、それが頭にあって増税先送りを決めたのだと思います。

14年は財務省が反乱を起こす可能性があったので、増税延期を決断した上で国民に信を問うて総選挙を実施しました。財務省と自民党増税族が連動して起こす反乱を封印するという政治的な意味合いだったと思います。ですが、今回は先送りが既定路線になり、あえて衆議院を解散しなくても、再延期宣言によって党内で反乱が起きる状況はなかった。

【塩田】憲法改正が悲願の安倍首相は、自民党総裁任期満了の18年9月までに改憲実現をと考え、改憲案の国会発議に必要な衆参での総議員の3分の2を確保するために、内心では最後まで衆参同日選の実施に執念を燃やしていたのでは、と見る人もいました。

【渡辺】「密教戦略」としては考えたかもしれませんね。「顕教戦略」と「密教戦略」を使い分けた。顕教戦略として増税で信を問う。密教戦略として自公プラスアルファで3分の2を確保する。公明党が改憲に積極的ではないので、逆に「てこの原理」で自公以外の政治勢力が外部からレバレッジを利かすことで改憲の布石を打つ。それは十分考えられます。ですが、密教戦略を封印し、顕教戦略でも同日選は選択しなかった。まず非常時対応しなければならない事態が出てきたから、それをないがしろにするのは安倍首相の美学にも反する。そういうことではなかったかと思います。

【塩田】渡辺さんは第1次安倍内閣で公務員制度改革担当などの特命相を務めましたが、12年12月以後の2度目の安倍内閣と安倍首相の政権運営をどう見ていますか。

【渡辺】2度目の安倍内閣の政策を見ると、もともと私がみんなの党の時代に主張していたことが採用されています。みんなの党というベンチャー政党をつくり、その後、数個の政党ができました。結果として2度目の安倍政権が誕生し、私が自民党にいた時代から主張していた政策が曲がりなりにも実現しつつある。それは大変、結構なことです。

安倍首相の真骨頂は、歴代内閣で金融政策などのマクロ経済政策に初めて強い価値を持ったことです。そのために日本銀行の総裁と副総裁の人事を行った。この点は高く評価をしています。ですが、アベノミクスとは異質の増税をやったのが最大の失敗だったと思います。異次元の金融緩和と積極財政をやらなければいけないのに、緊縮財政で急ブレーキがかかって消費が伸びなくなり、デフレギャップを拡大させた。インフレ目標が達成できない状況になった。これを正しいマクロ政策に戻すことが肝心です。