プロ経営者の起用は一つの選択肢でしかない
しかし、買収した独グローエ傘下の中国企業の不正会計を見抜けず、660億円の特別損失を計上し、LIXILの16年3月期決算は6年ぶりの最終赤字に追い込まれた。藤森氏には就任前の11年3月期にわずか3%に過ぎなかった海外売上高比率を16年3月期に30%に引き上げ、LIXILをグローバル企業に導いた自負はあった。
結果がすべてのプロ経営者にとって自失に逃げ道はなく、退任に追い込まれる。後任には工具インターネット販売大手、MonotaRO(モノタロウ)を育て上げた瀬戸欣哉氏が就く。後釜のプロ経営者は5月9日のLIXILの決算発表記者会見で、6月の就任前にもかかわらず、隣に座る藤森氏を前に、「買収後の統合プロセスが全然不十分。いまの資産をどう生かすかが最優先だ」と、「藤森路線」にダメ出しした。さながら、矢継ぎ早のM&Aで肥大化した組織に「瀬戸流」のメスを入れるとの意思表示であった。
米欧で決して珍しくないプロ経営者のトップ起用は、日本企業でも近年、注目され、採用例が増えつつある。ローソンのトップからサントリーホールディングスの社長に電撃移籍した新浪剛史氏、日本コカ・コーラの副社長、会長から資生堂の社長に転身した魚谷雅彦氏、ジョンソン・アンド・ジョンソンの日本法人からカルビーのトップに転じた松本晃氏らがその代表例だ。
年功序列、終身雇用が根強く残る日本型の雇用慣行にあって、日本企業でトップは組織内昇格型が一般的だった。しかし、歴史が積み重なり組織や意志決定の仕方が硬直化すれば、事業・経営の変革に外部の力が必要な場合もある。その意味で、プロ経営者の起用は一つの選択肢でもある。それが最適解かは原田、藤森両氏のケースをみるまでもない。