地方創生、女性活躍社会の意向をくんだ人選

経団連の歴史をたどれば、公益事業代表は東京電力が圧倒的な存在で、会長、副会長を輩出してきた。しかし、2011年の福島第1原発事故で実質国有化された東電は活動から退き、同じ公益事業の東京ガスにポストが転がり込んだ格好だ。他方、流通業からはかつてダイエーの創業者である中内功氏、現在のセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長が副会長を務めた時期があった。

その後は流通業界の担い手不足もあり、副会長ポストは途絶えてきた。その点で岡本、石塚の両氏の起用は異例に映る。榊原会長は両氏の起用を、安倍晋三政権が成長戦略に据えるインフラ輸出推進やインバウンド需要拡大にそれぞれ関連する業界出身だけに、その「発信力に期待する」と語る。安倍政権に擦り寄る榊原会長が、今回の副会長人事でその姿勢を一段と鮮明にしたとみるのが自然の流れだ。

それは、審議員会の新副議長人事にも端的に表れている。6月2日付で就任する6人の1人に、石川県の伝統工芸品・金沢箔製造の箔一(金沢市)の浅野邦子会長を選んだからだ。榊原会長は浅野氏を「地域産業活性化のまさに担い手」と評しており、地方創生、女性活躍社会の実現を掲げる安倍政権の意向をくんだ人選とみて間違いない。

経団連は戦後経済を支えてきた製造業中心の経済団体で、重厚長大型の中核企業に偏重した役員人事を貫いてきた。その点で、今回の異例、異色の役員人事は硬直化した活動の活性化を促すかもしれない。しかし、東電、東芝という中核企業が重要な役割を担えなくなるなど、人材面の弱体化が着実に経団連の基盤を蝕んでいる事実を打ち消すことはできない。そんな事情も今回の役員人事からは垣間見られる。

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