大腿を使い、体幹を鍛える

かくのごとく「体直く」は、人の骨格・体型に逆らわない体の使い方なのである。だが、小笠原流礼法の歩く&座るは、現代人にはかなりきつい動作である。

歩くとき、一般には前に踏み出した足に体重をかけ、後ろの足を引き寄せるようにする。ところが、礼法では踏み出した足と後ろの足の真ん中に重心を置き、両足を引き寄せるようにして、後ろの足を前に出す。

この歩き方は、大腿筋に強い負荷がかかり、にわかにはできない。座った状態から立つ動作は、さらに至難の業だ。これはぜひ、椅子で試してみてほしい。

「体直く」すなわち、上体を直立させた姿勢のままで、体を前傾させず、反動もつけずに立ち上がるのである。多くの人は、座面から尻を離すことができないだろう。

だが、歩行でも起立でも、使っているのは大腿筋ばかりではない。腹筋、背筋をはじめ、体幹全体を使う。今でこそ、体幹トレーニングが目新しいかのように喧伝されるが、かつて武士は、日常のすべての動作でこれを行っていたのだ。

「彼らは、現代人よりもはるかに強い筋力と、平衡感覚を持ち合わせていたでしょう」

さもありなん。試してみれば納得がいく。


歩く
▼歩く
・1本の線を挟むようにして、足を平行に踏み出してゆき、肩が左右に振れないようにする。上体が前後に振れないように。常に重心が中央にくるように。太腿で歩くイメージで。後ろの踵を上げると、重心が前に移動してしまうので、踵を上げないようにして歩く。
・腿、肚、尻の筋力を使い、腰を振らないようにして進む。線の上に踵を乗せて歩く“モデル歩き”は、腰が振れるので無駄がある。
・畳の上での歩き方を外でも生かせば、無理のない美しい歩き方ができる。靴底の厚みを考慮して踵を上げ、引きずらない。
[歩幅と呼吸]
・走る足~一呼吸で六歩、足の半分の歩幅
・進む足~一呼吸で四歩、足の幅の歩幅
・歩む足~一呼吸で二歩、男性は二間を七歩、女性は二間を九歩の歩幅
・運ぶ足~一呼吸で二歩(ゆったりした呼吸)
・練る足~吸う息で一歩、吐く息だけ留まる
※一間≒1.818m
▼跪坐
つま先は踵より内側に。踵と踵を付け、その上に尻を乗せる。手は腿の上に自然に置き、背筋を伸ばし、正しく頭を据える。

立つ←→正座
▼立つ←→正座
・立つときは、上体を振らずに足の幅分だけ尻を上げて両足の指の爪先を立て、跪坐の姿勢に。下座側の足を踏み出すと同時に尻を上げる。踏み出す足の先は膝より前に出さない。上体を振らず、上げた尻を下げずに「無風の中、煙が立ち上るように」静かに立ち上がる。
[1]男性は上座側の足を半足引く(女性は着物の裾を乱さぬため下座側を半足出す)。
[2]前後左右に上体が振れないよう、「水の中に沈むような」心持ちで下ろす。膝の屈曲が深くなると重心が崩れそうになるが、腿で耐える。
[3]後ろの膝を腰で押すように進め、膝がそろうと同時に踵に尻を付け、跪坐の姿勢に。腿の付け根は常に膝より高い位置に。
[4]跪坐から片足ずつ足を寝かせて親指(左右問わず)だけ重ね、その上に静かに座る。反動をつけずに腿と尻の筋肉を使う。