正社員を守るために「派遣法」ができた
派遣という働き方は、そもそもは専門的な知識や技能を持つ労働者を、臨時的・一時的に派遣することを前提としていた。このような専門性を持つ労働者であれば、交渉力があることから中間搾取の可能性が低く、また派遣先企業の直接雇用が派遣で置き換えられる心配(いわゆる常用代替)もないとして、1986年に労働者派遣法が施行された。その後に専門業務の対象が次第に拡大され、製造業への派遣が2004年に可能になるなど、時代を通じて規制が緩和されていくことになった。
この経緯を見てもわかるように、そもそも派遣法とは、派遣労働者のためのものではなかった。目的は正社員の仕事が派遣に置き換えられてしまう常用代替の防止である。つまりは従来型の働き方である正社員を守るための法律であった。
これに対して、数回にわたる法改正を経て、最近になって法律の名前も「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」となり、派遣労働者の保護が明記されることになった。
今回の法改正では「業務単位から人単位へ」という派遣期間規制の見直しが行われた。これまで26の業務は専門業務とされ、派遣期間に制限がなかった。一方、その他の業務には最長3年という受け入れの上限があった。これが法改正により、すべての業務について受け入れ側の期間制限が実質的になくなる一方、労働者ごとに同じ課で働くことができる期間に3年の上限が課された。ただし労働者が派遣元企業で無期雇用されている場合や、60歳以上の派遣労働者の場合などについては、例外として期間制限がかからない(※2)。
法改正のひとつの理由は、悪質な派遣事業者の排除である。派遣労働者の業務が専門的とされる「26業務」の基準は必ずしも明確ではない。そのため26業務として派遣された労働者が、専門以外の業務も担当するなどの逸脱が指摘されていた。また法改正前までは、常用雇用労働者のみを派遣する届出制の「特定事業」と、それ以外の労働者を対象とする許可制の「一般事業」が存在していたが、悪質な事業者が許可逃れのために特定事業を装うケースがあった。
もう1つの理由は時代の変化にある。これまで専門的とされていた26業務には、現状ではそれほど特別な技能とは言えないもの、例えばパソコン等事務用機器の操作やファイリング業務などが含まれており、専門業務とそれ以外とを区別する意義が薄くなっていた。
今回の法改正には、労働者の視点からは一長一短がある。まず「専門業務か否か」という曖昧な切り分けをなくし、統一的な基準により明確化されたことは望ましいといえる。
また法改正により労働者ごとに同じ課で働くことができる期間に3年の上限が課されたが、派遣労働者はこれまでと同じ業務を続けることを望む場合には、他の派遣先企業に移る必要がある。また、同じ派遣先企業で働き続けることを望む場合には、仕事内容を変えなければならなくなった。このため派遣先企業は、同じ人に同じ仕事を続けて欲しければ、直接雇用に切り替える必要がある。これらはキャリアアップと雇用の安定につながる可能性がある。