55歳の男性Aさんは親の住む実家を「自分の子どもに伝えたいから家系図を調べたい」と訪ね、あれこれ親戚関係の名前を聞きました。
57歳の女性Bさんは、「父さん、母さんが新婚時代に住んでいた場所へ行きたい」と申し出て、共にセンチメンタル・ジャーニーをしました。
52歳の男性Cさんは自分の誕生日に母へ手紙を送りました。「僕を生んでくれてありがとう」。母親は、「これまでの苦労が報われた」と感じ、相続対策の相談のため私の事務所にやってきました。
以上3人の共通点は、生前贈与や相続といった言葉を親にあえて言わなかったこと。親は子どものそうした行動に、驚くとともに「ああ、自分(たち)に興味・関心を持ってくれている」と、とても嬉しく感じるのです。自分の気持ちや思い、そして生きてきた長い道のりを、子どもを含む後の世代が引き継いでくれる。親はそう感じると、再び子どものために「何かしてあげたい」という欲求がむくむくとわきあがってくるものです。
そうなれば、もはや子どもが特別に何かすることはありません。ただ、(2)の段階で、親の希望をしっかりと聞くということも大切です。さらに言えば、(1)も(2)も(3)も、親と直接話すのは、子ども(息子か娘)に限ります。子どもの伴侶(妻や夫)や孫などは同行しないのがポイントです。
親にとって、嫁や婿は近しい関係とはいえ、血がつながっていません。孫も小さい頃はかわいいけれど大きくなれば……。唯一、何歳になろうと目の中に入れても痛くないのは、実の息子・娘だけなのです。
天野 隆
相続専門ノウハウと対応の良さに定評ある税理士法人レガシィ代表取締役。税理士。宅地建物取引主任、CFPの資格も。著書に『親に何かあっても心配ない遺言の話』など多数。