支持率トップでも知識は素人レベル
日本政府にとって気がかりなのは、トランプ氏の日本への認識だ。トランプ氏は過去に日米安全保障条約に関して「誰かが日本を攻撃したら、われわれは救援に駆け付けなくてはならない。でも、われわれが攻撃を受けても日本は助けにこなくていい。こんな取り決めは割に合うだろうか」と発言した経緯があり、片務性の解消に強い関心を抱いているとされる。
安倍政権は9月に念願の安全保障関連法を成立させ、集団的自衛権の行使を可能にする法的基盤を築いたが、これは「限定的」な行使の容認にすぎない。政府・与党も国会審議などで「自衛隊が米国と一緒に地球の裏側で、日本の安全と関係なく集団的自衛権を行使することはありえない」と繰り返しており、いまだ懸念の声が根強い「地球の裏側論」とは一線を画している。
トランプ氏が求める日米同盟のイメージはなお不明瞭だが、片務性の解消は現行法の対応で可能になるレベルではある。とはいえ、地球の裏側にまで双務性が担保されなければ「割が合わない」というのが真意であれば、トランプ政権発足後は「フルスペックの集団的自衛権」を行使可能にするように迫られる可能性がある。
また、「われわれは日本から雇用を取り戻さなければならない」と主張し、貿易不均衡の是正を打ち出しているトランプ氏。メキシコからの移民を「強姦犯」と言い切るなど暴言の数々は全米から批判を受けるが、率直な物言いの愛国者として保守層を中心に支持を集めているのも事実だ。大統領選の共和党候補は16年7月の党大会で正式に指名されるが、トランプ氏は支持率トップのまま大統領就任まで突っ走るのか。外交・安保面の知識量や政治の素人ぶりを危ぶむ声が強まるなか、安倍首相の側近は不安を隠しきれずに吐き捨てた。「米国でもルーピー(愚かな)大統領が誕生したら、日本はかなり振り回されるな」。