課題を解くためのPOINT4:単回帰分析の活用
費用対効果を含めた数値目標を
▼「なんとなく」な目標はもうやめよう
目的を達成するための数値目標(KPI: Key Performance Indicator)をどう決めればよいのか、という悩みを多く耳にします。実際には「前例にしたがって、なんとなく」決めているところも多いようです。このような課題にも相関や回帰分析が役に立ちます。例題をもとに考えてみましょう。
POINT2の相関分析によって、担当者の業務習熟度と配達遅延との間には、一定の相関があることがわかりました。配達遅延が利益を圧迫し、得意先小売りチェーンの地域A出店の懸念材料になりかねないこともすでに確認しました。
つまり配達遅延を改善すれば利益率の改善や顧客満足につながるわけで、利益の増大という会社目標に貢献する部門目標(KPI)として、担当者の習熟度を向上させることにより配達遅延を改善することは妥当であると考えられます。
では、担当者の業務習熟度と配達遅延にはどのような関係があるのでしょうか。習熟度をどのくらい上げると配達遅延がどのくらい改善されるのかがわかれば、会社が習熟度の向上にどのくらい費用をかけるべきかも明らかになってきます。
そこで習熟度と遅延日数の間の数値関係について、単回帰分析を行ってみます。この計算は、相関分析で作成したExcelの散布図上ですぐに行えます。ここでは「担当者の習熟度が上がれば遅延日数は改善する」という因果関係を前提とします。
すると、次の回帰式が求められました。
Y=-0.39X+4.69
R2=0.69
この式から、習熟度(X)を1ポイント改善すると、0.39日、すなわち約0.4日の遅延を解消できることがわかりました。
ここからKPIを設定するにはどうすればよいか。やや粗い設定ですが、仮に40人いる担当者の平均で、遅延日数を2日改善したいと想定しましょう。そのためには全体で40人×2日=80日の改善なので、80日÷0.4=200ポイントの習熟度改善が必要です。
仮に習熟度を1ポイント上げるのに5000円のトレーニング費用がかかるとすれば、200×5000円=100万円の費用が必要になります。もし、100万円の予算を捻出できなければ、「遅延日数を2日改善する」というKPIそのものを緩和する必要があります。
このように施策の効果とコストのバランスを適切に見極めながらKPIを設定するためにも、単回帰分析で得られた数式が活躍します。
慶應義塾大学理工学部卒業後、日立製作所入社。米ゴイズエタ・ビジネススクールにてMBA取得。2004年日産自動車入社。『「それ、根拠あるの?」と言わせないデータ・統計分析ができる本』など著書多数。