学校給食費の不払いの理由

10年ほど前、小中学校の学校給食費を支払わない親が全児童生徒の約1%にあたる10万人に上り、滞納総額は22億円余に上ることが話題になった(2005年度の文科省調査)。貧しくて払えない、というよりむしろ、学校給食制度をみんなで支えているという意識が保護者に薄れ、「みんなで払わなければ怖くない」といったモラルハザードが原因らしかった。

この問題は現在も尾を引いている。東京新聞電子版(6月28日)によれば、埼玉県下の市立中学校4校が6月中旬、学校給食費を3カ月間納めていない生徒の保護者43人に「未納のままなら7月から給食を停止する。弁当を持参してほしい」との趣旨の通知を出した。その結果、41人の保護者が給食費を納入する意思を表明したという。

記事には、「4校の給食は以前は給食センター方式だったが、今年4月に自校方式に切り替わり、給食会計が市から学校側に移管されて未納問題が顕在化した」という記述があった。逆に言えば、給食管理が大規模システムだったときには「なんとなくのモラルハザード」が蔓延していたわけである。

かつてのように給食費が学校(教室)単位で給食袋によって納入されていた場合は、出せるはずの給食費を出さないという事態は起こらなかった。だれが払い、だれが払わないという区別が見えない銀行振り込み方式になって、「給食費は払うものである」という一般的な道徳が失われたわけである。

イスラエルで夕方迎えに来る親が約束の時間に遅れることに業を煮やした幼稚園が遅刻時間にあわせて追加料金をとることにしたら、かえって遅刻する親が増えたという。この事例を紹介したマイケル・サンデル『それをお金で買いますか』(早川書房)は、「迎えの遅れに価格をつけたせいで、規範が変わってしまった。かつて時間を守る―保育士に迷惑をかけない―ことは道徳的義務とみなされていたが、いまでは市場関係とみなされている」と述べている。

サンデルの意図は、本来入り込むべきでない分野に市場が介入することで、道徳、規範に変化が生じるということだった。みんなの迷惑になることはやめようという一般的な道徳が市場関係を導入することによって失われたように、インターネットという技術を日常的に使っていることで、私たちの生き方の基本も、その深層において徐々に変わりつつある。インターネットは技術の一大体系であり、技術では倫理を代替できないということである。しかもこういう小さな変化が人びとの意識や感情に大きな影響を与えつつあることを強調しておきたい。

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