泣かせるケータイ会社のCM

動画投稿サイト YouTubeには「泣かせる話」として、世界各国のテレビCMなどが紹介されているが、その中にタイのケータイ会社のこんな作品がある。

母親の留守中に泣きだした赤ん坊に、若い父親が狼狽している。まだ自分で赤ん坊を抱いてあやすのが怖く、さっそくケータイで妻に連絡した。アプリの動画、バカトン、バカトンを見せたらどうかと母親が提案し、やってみるが、効果はない。「アプリじゃなく、君が必要なんだ」。母親はパンピン、パンピンとケータイ越しに表情たっぷりにあやして、それを赤ん坊に見せるが、やはり効果がない。

スーパーで買い物をしながらケータイに向かって妙な表情をしている母親は周囲の人から怪訝な目で見られるばかりで、赤ん坊はいよいよ大声で泣き、父親はさらに狼狽する。ついに父親は一大決心をして、ケータイをベッドの上に置き、はじめて自分の両手で、おそるおそる赤ん坊を抱き上げる。するとあれだけ泣き叫んでいた赤ん坊が泣き止んで、笑顔を見せた。思わぬ事態に感激している父親の姿を、ベッドの上のケータイを通して見た母親もまた、人目をはばかりながら、目頭をそっとぬぐう。そのとき、「技術は愛を代替できない(タイ語。字幕の英文ではTechnology will never replace love)」というテロップが流れる(https://www.youtube.com/watch?v=-8nkgUHzlQY)。

設定が秀逸なうえに父親と母親を演じた役者の演技がほのぼのと魅力的で、これがケータイ会社のCMというところがニクイ。愛を技術で代替することはできないが、その感動的なシーンをケータイは伝えることができる、というのが隠されたメッセージである。

<サイバーリテラシー・プリンシプル(27)技術で倫理は代替できない>の巧みな具体化として紹介しておこう。すでに<(3)スマホに子守をさせない>http://president.jp/articles/-/12883で紹介したように、技術やシステムに頼りすぎるのは危険である。具体的な人の介在しないところからは倫理は立ち上がらない。