汚染水の対処法「凍土方式」が通じるかは疑問

福島第一原発の事故処理の現況はどうか。事故の1週間後、「収束には40年かかる」と私は断言した。その10分の1の時間しか経過していない。今はまだひたすら冷却を続けるしかない。事故から10年が経過したら解体作業に入るだろうが、10年後もまだまだ放射線量は高いから、溶け落ちて固まった核燃料を取り出すのは大変な作業だ。

アメリカは再臨界の危険性を懸念していたが、私はまったく心配していなかった。現段階では再臨界のリスクはない。想定外だったのは地下水の多さで、あれだけ出てくるなら冷却水に使っていればよかった、と思うくらいである。

現状一番の課題といえば汚染水問題。汚染された冷却水と地下水が増え続けるのを止める手立てはない。結局、IAEA(国際原子力機関)も認めているように、汚染水の放射性物質をなるべく除去して、海洋投棄するしかない。となれば、放射性物質が海洋に拡散するのは避けられない。政府は原発敷地内の土を凍らせて地下水の流出を防ぐ「凍土方式」に懸けて巨費を投じているが、前例のない方式がどこまで通じるかは疑問だ。

思い返せば、当時の原子力安全・保安院や原子力安全委員会、東京電力が揃いも揃って地震や津波に対する適切な対策を講じていなかったのは怠慢の限りで、誰一人処罰されていないのは納得がいかない。東電ばかり叩かれているが、責任の所在はやはり旧原子力安全・保安院と旧原子力安全委員会にある。9.11以降、アメリカはテロリスト対策として原発の安全性に係るいろいろな設計変更を求めてきた。たとえば「テロリストに外部電源を切られた場合に備えて、代替電源を必ず用意せよ」というような指針を出してきたのだ。多くの国がこれに準拠したのに、日本政府(原子力安全・保安院、原子力安全員会、経産省)および電力会社はこれを無視した。金がかかるからだ。結果、日本の原子力安全指針は、「交流電源が長期にわたって落ちることを考慮して、電源を複数確保する」という視点を欠くことになり、そのわずかな隙を突かれて原発事故は起きた。

巨大科学に携わる人間には、責任ある行動が求められる。社会的な影響に鑑みて、無責任な行動は処罰の対象になるという原理原則をここで確立しておくべきだと思う。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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