昼行性への移行が過酷だった
では何故、人は加齢とともに黄斑変性を起こしやすくなるのか。そのヒントになったのは、真っ暗な場所で飼育し続けたモデル動物と、12時間サイクルで明るい環境と暗い環境で飼育するモデル動物の目の状態の違いでした。明らかに真っ暗な場所で飼育した動物の方が網膜の状態が良い場合があることが知られていました。
文明は日進月歩で発展をとげ、電灯が夜道を照らし、光を放つテレビ、パソコン、スマホといったデジタル製品を使うことが当たり前になりました。目が光に曝露される量は格段に増えたのです。また、医療の発達により平均寿命は延び、厚生労働省からは2013年の日本人の平均寿命は女性が86.61歳、男性80.21歳と男女ともに最高を更新したことが発表されていました。ガンや心疾患、脳血管疾患など命に直接関わる病気が治療できるようになったことも長寿を可能にした理由の一つです。
そして、延命や長寿に次いで求められるのが「クオリティオブライフ(QoL)」。耳が遠くなる、目が見えにくくなるなど加齢に伴う感覚器系疾患に対する治療のニーズは高まっています。長生きをすれば、目が働く期間も長くなるわけです。もともと人間を含むほ乳動物は夜行性であり、月明かり程度の光のもとで活発に活動する種として進化してきました。
やがて恐竜の絶滅とともに一部のほ乳動物は昼行性になり過剰な光に暴露されるようになりました。しかしながら、私たち人間の目はそれに耐えうるほど進化がおいついていない上に、四六時中、目に光が入ってくる生活環境は、実は目にとっては過酷であり厳しい環境であるのです。
2回にわたって創薬の世界、私たちが取り組んでいる治療薬開発についてお話をしてきました。ある結果が生じる時には必ず原因がある。それを突き止めるために私たちは仮説を立てます。その仮説は先人たちの知恵を借りることもあれば、自分たちの経験からヒントを得ることもあります。治療法のない疾患、すなわち、アンメットメディカルニーズに新薬という答えをもたらすために挑戦しているのです。