グローバル企業を支える「覚悟」とは

後継者にふさわしいか否か、外部の人間の力も借りて客観的に判断し、答えがイエスと出た以上は介入しない、立ち入らない。いったん事業を受け継いだからには過去の遺産に必要以上にとらわれない、引きずられない。後継者を指名する方、される方のどちらにも「覚悟」が必要だ。収益性の高いグローバル企業への転身劇を支えているのは、この「覚悟」である。

強い「覚悟」を伴う継承プロセスは次の世代にも適用される。

【ピノー】「私には息子が2人、娘が2人いますが、時間をかけて評価を行い、子どもたちが後継者として選択肢になり得るか否かの判断を下します。この4人とも後継者としての要件が見合わないようであれば、間違いなく外から後継者を持ってきますよ。いったん決定を下したからには介入は一切しません。その時点で後継者たるスキルを持っているかどうか、判断したわけですからね。私自身、この組織を大きく変革してきたので、好きにしてもらいたい。私も社名を変えたので、後継者が名前を変えたいのであれば仕方がない(笑)」

事業を継承してから約10年。ピノー氏はたくさんの経営判断ミスを犯したと振り返る。だが、常に自分に問いかけ、順調なときには最悪な事態を想定し、絶対に自己満足しないことで、過ちに早い段階で気づき、是正してきた。

プーマによるアーセナルの2014-2015シーズンのユニフォーム

【ピノー】「マネジメントは過ちを犯してもいいという原理原則のもとで経営を進めて行くことが必要だと考えています。ミスは成長の過程。過ちから教訓を得ていく、その繰り返しなのです。例えば、07年にプーマを買収したとき、私は経営陣の評価を誤りました。プーマの94年の売り上げは2億1000万ユーロ(294億円)。それが07年には24億ユーロ(3360億円)の企業に成長していたので、強い経営陣だと考えたのです。しかしそれは過ちでした。小さな企業を30億ユーロ(4200億円)の企業に育てるのと、30億ユーロの企業をさらに大きく発展させるのでは、まったく経営の意味が違う。そこに気づくのが遅れてしまった。結局、1年半かけて外からエキスパートを連れてくることにより経営陣を刷新し、プーマをさらに成長させる基盤を整えることができました」

ケリングは著名なブランドばかりではなく、新しい才能を育てるインキュベーションにも力を入れている。13年に買収した女性服のブランド、アルチュザラのデザイナー、ジョセフ・アルチュザラは、14年に米国で最も活躍するファッションデザイナーを表彰するCFDA賞(アメリカファッション協議会賞)を贈られた。手をこまねいているとブランドビジネスは容易に陳腐化する。ファンとともに老成する危険性も高い。新しい才能の仲間入りはケリングの未来には不可欠だ。

次にはどのようなブランドがケリングに加わり、グループにどんな刺激を与えていくのか。ケリングの未来像について今いえる確かなことは、進化がこれからも続くということだろう。ラグジュアリーの分野でのポートフォリオはほぼ構築されているが、スポーツ&ラグジュアリーについては構築の途上にある。おそらく完成形はないのだ。もしあるとすれば、それはピノー氏が次の後継者のバトンを渡すときかもしれない。

(三田村蕗子=インタビュー・構成 宇佐美雅浩=撮影)
関連記事
なぜ「ケリング」は日本市場を重視するのか
ルイ・ヴィトンと無印とカレーの共通点
なぜ「ケリング」は進化し続けられるのか
不況でも、なぜ高級ブランド品が売れるか
LVMHが早稲田大学とパートナーを組む狙い