薄さ1.5mmはどこにも真似ができない。それは、たまたま配合を間違った結果生まれた。

それを聞いた錦見氏は、下請けをやめて、人から頼まれる仕事をしようと即座に思った。しかし、何をしていいのかわからなかった。そんなとき、新聞の一文に目がとまる。

「これからの企業は3分の1の価格競争で戦える企業体質をつくるか、3倍困難な技術をもって戦うしかない」

食べることが好きだった錦見氏はフライパンに目をつけ、鋳物で3倍困難な技術を使ってつくることにした。それまで鉄鋳物のフライパンは強度を保つには4~5ミリの薄さが限界だと言われていた。それを1.5ミリの薄さにしようと考えたのだ。

しかし、つくってはみるものの、失敗の連続。ようやく3年後の1994年に2ミリのフライパンが完成した。プロの料理人には評判がよかったものの、主婦の間では重すぎると不評を買った。そこで、当初の目標通りに1.5ミリのフライパンづくりに再チャレンジした。そして、試行錯誤の末、8年後の02年にそれは完成した。このフライパンのおかげで、社員の意識は変わり、世界にないものをつくっているということで非常に士気が上がったそうだ。

「現在、自動鋳造機を自作しているところで、これが完成したら、30カ月も待たせることはなくなりますし、金型を替えるだけでいろいろな調理器具ができるようになります」

と錦見氏は話し、その一方で薄さ1ミリのフライパンづくりに取り組んでいる。1年以内には、そのフライパンが発売されるそうだ。

錦見鋳造(にしきみちゅうぞう)
1960 年に創業し、自動車部品や重機、ミシンなど向けの鋳物部品を製造。2002 年に苦労の末「魔法のフライパン」を開発し、以来その製造一筋。「利益の3分の1は社員に還元する」方針のもと、技術の革新・開発に挑戦し、鋳物の可能性を広げている。
 住所:三重県桑名郡木曽岬町大字栄262
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