私が代表を務めるファンクショナル・アプローチ研究所では、「30年後の福島を考える」をテーマに、実際に7名でファンクショナル・アプローチを行った。その結果、約250ものアイデアが出た。この段階では実現の可能性を問う必要はない。
「本当にできるのか」と問うた時点で過去に引き戻されてしまう。後で検証は必要だが、過去のしがらみや先入観を断ち切り、まず理想像を明確にするところに意義がある。
とくにメンバーが手ごたえを感じたアイデアを1つご紹介しよう。それは福島に国際的な高度医療産業都市を構築するというビジョンだ。
少子高齢化が進む日本では「社会保障としての医療」を維持することが難しくなり、「産業としての医療」で補完していくことになるだろう。福島は、そのシンボル的な都市になる条件を兼ね備えている。湯治に適した豊かな自然があり、空港を活用すれば東京より北米やヨーロッパに近い。また原発事故を契機に、放射能やがんに関する専門施設が設立され、高度な医療技術が集約されていくかもしれない。事故自体は悲しいことだが、未来のためにはマイナスをプラスに変えていく発想が必要だ。
もし高度医療産業都市の構築が実現すれば、福島のキーファンクションである「生命を護る」「生活を護る」、「経済を支える」「地域ブランドを高める」のかなりの部分が達成されることになる。
もちろんビジョンを描いただけで、それが実現されるわけではない。現実には、さまざまな障害が待ち構えているはずだ。しかしその都度、「それは何のため? 誰のため?」と問いかけてほしい。ファンクションに立ち返ることで、既成概念の呪縛から解き放たれ、あるべき姿にグンと近づけるはずだ。
改善士。世界最大企業・GEの価値工学に基づく分析手法を取り入れ、総額1兆円の公共事業のコストを10年間で2000億円縮減。著書は『ワンランク上の問題解決の技術』ほか。