日本の場合、若い世代の多くは自分が何になるかという明確な目標がないまま、大学に入って、22歳を過ぎてから社会に出る。そこから実社会で役立つスキルを身に付けなければならないために、職業人として格好がついてくるころには30歳を超えてしまう。

しかし、ドイツでは18歳ぐらいで「自分はこれで生きていく」という明確な職業観を持っている人が半分以上いる。しかもすでに将来勤める可能性の高い会社で丁稚奉公をしているわけだ。

10歳から始まる職業教育制度によって、ドイツ人は自分の職業を早くから見定めて、実地訓練をしながら気合を入れて勉強する。そうした人材が流れ込むように官民が一体となって職業教育システムを維持していることが、ドイツの産業が中小企業に至るまで強さを維持できている理由なのだ。

アメリカのオバマ大統領は経済安定化のために「ドイツのデュアルシステムを研究せよ」と何度も号令を発している。しかし、ドイツの職業教育システムは、中世以来の長い歴史の上に、ドイツ人の民族的誇りや執念が結実して形づくられたものであり、簡単に真似できるようなものではない。

同じく「モノづくり」を売り物にしてきた日本とドイツの教育が「ここまで違うとは思わなかった」と研修旅行に参加した経営者の多くは、ショックを受けていた。

そもそも日本の高校や大学の先生と話して、「我々は職能を教えている」「我々の学校で勉強すれば必ず飯が食える」という人に会ったことがない。むしろ「学校は職業訓練のためにあるんじゃない」と嫌悪する声のほうが多い。戦前、産官学共同体の中で大学が戦争目的の研究に駆り出された反動で、駐留軍は日本の高等教育をアカデミックな方向に純化した。少なくともその“呪い”が解けない限り、日本に本物の職業教育は根付かないだろう。