「お金で許して」では済まされない

さきほど述べたように、日本が集団的自衛権を行使することを、アメリカは歓迎していない。そもそも米軍は自衛隊の協力を必要としていないし、アメリカ軍の戦争の遂行形態も地上部隊を大量に送り込む作戦から、無人爆撃機やロボットを使って攻撃する作戦に変わってきている。爆撃機やロボットは、高価なシロモノだけに、これまでのように「人的支援の代わりに金で」と日本がいってくれたほうがアメリカは助かるのだ。

シリアの化学兵器を国際管理する案について、米国のケリー国務長官とロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相がジュネーブで協議した。(AP・ロイター/AFLO=写真)

ただし、今、中東で起こっている「シリア問題」のようなことが起きると話が違う。オバマ大統領は化学兵器を使用した“疑い”が持たれているアサド政権への武力行使の必要性を明言し、NATОの同盟国に同調を呼びかけた。しかし議会の反対多数でイギリスのキャメロン首相は早々に白旗を掲げ、ドイツのメルケル首相は「大義がない」として(中国とロシアの反対で成立する見込みのない)国連安保理決議を条件とした。結局、同調したのはフランスのオランド大統領だけで、アメリカとは何かと対立することの多かったフランスだけが唯一の友達という奇妙な構図となっている。

もしそこで日本が集団的自衛権を行使して「参加します」と言えば、「おお、日本もいたか。そういえば、オマエは60数年前、勇猛な戦士だったな」とアメリカも歓迎するだろう。

逆に言えば、「集団的自衛権が違憲ではない」となれば、日本はアメリカの派兵要請に逆らえなくなる。今までのように「お金で許して」とか「後方支援で勘弁して」では済まされない。それが今回、日本が直面している集団的自衛権の怖さだ。

大量破壊兵器を保有している確たる証拠と国連安保理決議を武力行使のエクスキューズにしていたアメリカは、「9.11」テロを境に大きく変わった。対テロ戦争という名目で、自分たちが集めた情報を基に標的を特定し、好き勝手に単独行動で攻撃するようになったのだ。

アフガニスタンやイラクへの攻撃はテロに対する自衛戦争という言い訳もできる。しかし、今回のシリア攻撃に関しては、アメリカはシリアから直接攻撃を受けたわけではない。もし日本が集団的自衛権の行使を容認したとして、シリアのようなケースで集団的自衛権を発動することが、本当に必要なのか。