「トランプ氏は『R』で始まる言葉を好む」元米大統領副補佐官が明かした内実〈安倍晋三元首相が完璧に体得していた「R」対策とは?〉(マット・ポッティンジャー/文藝春秋 2025年7月号)

第1次トランプ政権の国家安全保障担当の大統領副補佐官だったマット・ポッティンジャー氏が、「トランプ関税」が生まれた背景やその目的について語った。(近藤奈香訳)

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そもそもトランプ氏は、関税を通じて何を達成しようとしているのか。ウォルマートをはじめ米国の国内企業が関税による品不足やインフレのリスクを警告するなかで、高関税品目に関して、今後、関税率の引き下げの可能性はあるのか。その点を考察していきたいと思います。

三つの「R」

トランプ氏は「R」で始まる言葉を好む傾向があります。彼が頻繁に口にする三つの「R」は、彼の世界観や関税政策を理解する上でとくに重要です。

第一の「R」は「相互主義(Reciprocity)」です。

これはトランプ版の“黄金律”とも言える考え方です。本来、黄金律(新約聖書マタイ伝)とは「自分がしてもらいたいように他人に接するべきだ」というものですが、トランプ氏の解釈はやや異なります。彼は、相手国が米国をどう扱っているかに応じて、貿易や安全保障の面で扱い方を変えるべきだと考えています。

ドナルド・トランプ氏 ©JMPA

トランプ政権は、こうした考えに基づいて「相互関税」の導入を進めています。4月初めの発表より関税率は低くなる可能性はあるものの、対象国との交渉の進展次第では実際に適用されるかもしれません。

「すべての国との輸出入が完全に均衡している」というのが、トランプ氏の理想の世界です。経済学者から見れば、極めて非現実的な発想ですが、彼は経済学者ではありません。「非関税障壁のせいで米国製品の競争力が損なわれ、不公平な貿易が続いている」と信じているのです。

第二の「R」は「再工業化(Reindustrialization)」です。

トランプ氏は、この30年間で米国の製造業の雇用が、中国を始めとするコストの安い国へ流出したことで、中西部の社会状況が悪化し、国家の安全保障に関わる多くの重要物資(レアアースや医薬品など)に関して輸入品への依存が進んでしまったと考えています。そのため、2期目の初日に、「投資と生産性を促進し、米国の産業的・技術的優位を高め、経済的・国家的安全保障を守り、そして何より米国の労働者に恩恵をもたらす」貿易政策を発表しました。

トランプ氏は、サプライチェーンが中国からベトナム、タイ、メキシコといった他国に移ることも望んでいません。彼の狙いは、それらを米国本土に引き戻すことにあります。「再工業化」を実現するために、減税、エネルギー生産へのインセンティブ、規制緩和、そして、その手段として「第一に関税、第二に関税、第三に関税」という政策を打ち出しています。