柳井社長のオーラで体調を崩した
もし赤字部門を任されたなら、まずいろいろな人の話を聞いて回り、問題の本質を見付けなければならない。そして明確なビジョンとシナリオをつくり、従業員のやる気に火をつけることだ。
当社も2008年度決算で赤字に陥った。当時あった約70店舗のうち赤字店が10店舗近くになったうえ、既存店売り上げが減少。そこに06年の上場で増加した本部経費が重くのしかかった。
なぜこんな事態を招いたのか。お客さまはもちろん、家族や友人などさまざまな人に会って「なぜ売れないのか?」を聞いた。そこで出てきた答えは、「メガネと雑貨を一緒に売るのはけしからん」。当時、当社はメガネと雑貨を組み合わせたオリジナル業態をつくり競合との差別化をしようとしていたが、それがうまくいかなかった。
もう1つ赤字を出した要因がある。それは上場し資金調達できたがゆえ、甘い判断で次々に新規出店をしてしまったことである。戦略を間違え、気も緩んでいたのだ。
自分たちのビジネスモデルが通用しない事態に直面し、気持ちは焦った。業態をこう変えてはどうか、商品をこうしたらいいかと改革案を考えたが、次も失敗したら取り返しがつかない。踏ん切りはつかなかった。
転機になったのは、知人の紹介でファーストリテイリングの柳井正会長兼社長にお会いしたことである。最初に「御社の事業価値は何か?」と柳井さんに問われ、私が明確に答えられないでいると、怒濤のように「ビジネスはビジョンや志を出発点にしないとダメだ」と教えられた。あまりの迫力とオーラに、その後体調を悪くしたほどである。
当時、わが社は「メガネをファッションに」という言葉を掲げてはいたが、それは勝負自体に勝つための戦略にすぎず、志と言えるものではなかった。世の中の多くの会社を眺めても、みな勝つための戦略は考えてはいるが、「われわれは何のためにこの事業に取り組んでいるのか」というレベルにまで落とし込んでいる会社はあまりない。