傷口から侵入して、毒素を産生する

さて、源内が患った破傷風とは、酸素のないところでのみ増殖する偏性嫌気性菌である破傷風菌によって引き起こされる感染症である。破傷風菌は通常の自然環境では土壌のなかに芽胞という増殖力はないが、物理化学的に安定した細菌本体よりも小さな粒子で存在する。そして傷口などから侵入して、創部で発芽・増殖し、毒素を産生するようになる。

顕微鏡で見た破傷風菌
顕微鏡で見た破傷風菌(写真=CDC/PD US HHS CDC/Wikimedia Commons

破傷風菌の産生する神経毒素テタノスパスミンは、細菌のゲノムとは別にプラスミドという独立した遺伝子にあって、破傷風菌の増殖や代謝に伴ってその産物が創傷局所から血液やリンパの流れによって末梢神経の端末に達する。さらに末梢神経から軸索という細い神経線維を伝わって脳や脊髄などの中枢神経に達するのである。

中枢神経では興奮を伝達する経路と、抑制する経路が拮抗してバランスが保たれているが、破傷風毒素は神経結合部であるシナプスにおいて抑制性神経伝達を選択的にブロックする。そうなると、わずかな刺激でも末梢運動神経、脳神経、交感神経神経の活性化が生じて、全身の強直性けいれんや開口障害など破傷風特有の臨床症状を引き起こすのである。