大連立で合意に達した二大政党
トランプショックの陰で全く目立たなくなってしまったが、ドイツで4月9日、新政権の発足に向けた連立協議が合意に達した。新政権の組み合わせは、2月の総選挙で第一党となった中道右派のキリスト教民主同盟・同社会同盟(Union)が首班となり、中道左派の社会民主党(SPD)がそれをサポートする、いわゆる「大連立」となる。
新首相には、Unionを率いるフリードリヒ・メルツ党首が就任する見込みだ。ドイツの公共ラジオ放送ドイチュラントフンクによると、滞りが無ければ5月7日にも議会で首相指名選挙が実施される運びという。17ある閣僚ポストのうち10をUnionが、残り7をSPDが担う。財務相を除く要職をUnionが担うポスト配分がなされている。
ここで注目されるのが、連立協議書の内容だ。前任のオラフ・ショルツ政権の下で、ドイツは「脱炭素」「脱原発」「脱ロシア」の三兎を追うエネルギー戦略を追求した。その結果、ドイツの経済の高コスト化が急速に進み、ドイツの国際競争力を劇的に低下させた。Unionを首班とする新政権は、果たしてこの路線を修正するのだろうか。
加えて注目されるのが、ショルツ政権によって強化された分配戦略が修正に向かうのかという点である。中道左派のSPDを首班とするショルツ政権は、政治主導で最低賃金を引き上げるとともに、経済界に対して賃上げの動きを促してきた。こうした積極的な分配戦略が人件費高につながり、経済の高コスト化をさらに促したのである。
いずれにせよ、連立協議書の内容を確認すれば、三兎を追うエネルギー戦略や積極的な分配戦略の在り方がどの程度変わるのか、それとも変わらないのかが明らかとなる。
基本的に踏襲されるエネルギー戦略
まず「脱炭素」「脱原発」「脱ロシア」の三兎を追うエネルギー戦略の修正に関して確認したい。脱原発については、国内で原発回帰の世論が高まっており、またUnionの公約には再稼働に向けた議論を進めると掲げていた。しかし、その連立協議書に言及はなく、基本的に新政権は、引き続き三兎を追うエネルギー戦略を歩む方針ようだ。
Unionによる決断の背景には、SPDが脱炭素を重視していることに加えて、改憲に際し環境タカ派である同盟90/緑の党(B90/Grünen)の協力を仰いだことがあったと考えられる。UnionはSPDとB90/Grünenに配慮し、原発再稼働の選択肢を後退させ、これまで通り再エネとガス火力を主体とするエネルギー戦略を追求するようだ。