330億円かけて全長17.5キロの巨大防潮堤を建設
低地が広がる浜松市では、地震発生から約18分で津波が海岸まで到達し、最大津波高15mが東海道新幹線などを直撃し、JR浜松駅付近まで浸水すると予想された。南海トラフ巨大地震によって、浜松市内では約1万6500人が犠牲になると想定されている。
一条工務店の300億円寄付を受けて、浜松商工会議所が音頭を取って企業、市民らに寄付を募り、浜松市は全市民挙げて津波対策に取り組んできた。これらの寄付を中心に総額330億円で防潮堤が建設されることになった。
2013年7月に着工し、2020年3月に高さ13mから15mを基本とする延長約17.5キロという全国屈指の長さの防潮堤が完成した。
この防潮堤は、南海トラフ巨大地震による大津波が越水したとしても、宅地の浸水面積を約8割減少させ、さらに木造家屋の倒壊の目安とされる浸水深2m以上の区域を98%低減できると見込んでいる。死者数はほぼゼロと試算しているのだ。
防潮堤の内部構造は、ダム技術として開発された「CSG工法」を台形形状で配置し、その両側を土砂や砂等で被覆している。CSGは岩石質の材料にセメントと水を混合したもので、強度が高く浸透破壊や越水による破壊が生じず、連続した地震の揺れや津波などに耐えるとされている。
つまり、国が想定する、南海トラフ巨大地震の津波の来襲によって防潮堤がすべて壊れるとした前提とはまったく違っている。
防潮堤も、津波避難タワーも「効果ゼロ」判定
今回の国の被害想定では、浜松市の場合、想定より2m高い17mの津波が押し寄せることで、防潮堤すべてが破堤されるという評価を受けた。これをそのまま納得できないこともわかる。
静岡県が2023年6月の発表で「死者を8割減」としたのは、浜松市などの防潮堤に加え、沿岸部に人工の高台(通称「命山」)と津波避難タワーを東日本大震災前の7から137まで増強し、508カ所の指定にとどまっていた津波避難ビルをから1316カ所まで増やすなどの対策に取り組んできたからである。
2013年当時よりも命山、タワーは20倍に、ビルも2.5倍近くに増えているが、国はそれほどの減災効果がないとみなしたようだ。
また、防災拠点となる公共施設や木造住宅の耐震率は高く、震災総合訓練への参加率は10.4%で、全国平均1.3%をはるかに上回る。1976年の東海地震説以来、いまでも県民の防災への意識は極めて高い。
静岡県の取り組みを全く評価しないのでは、いたずらに南海トラフ巨大地震の危機感を煽っているようにしかみえない。