薬剤師などの仕事をしてきた女性は23歳の時に7歳上の一級建築士の夫と結婚。子供はいなかったが、とてもいい関係を続けてきた。ところが、夫が67歳の時、突如としてめまい・ふらつき・転倒が多発。医師は脳の画像などを見た後、「治りません。難病です」と聞いたことのない病名を告げた――。(前編/全2回)
この連載では、「シングル介護」の事例を紹介していく。「シングル介護」とは、主に未婚者や、配偶者と離婚や死別した人などが、兄弟姉妹がいるいないにかかわらず、介護を1人で担っているケースを指す。その当事者をめぐる状況は過酷だ。「一線を越えそうになる」という声もたびたび耳にしてきた。なぜそんな危機的状況が生まれるのか。私の取材事例を通じて、社会に警鐘を鳴らしていきたい。

両親は離婚。高校の部活のOBと結婚

関西地方在住の久保田悦子さん(仮名・67歳)の両親は、友達の紹介で知り合い、母親が25歳の時に久保田さんが生まれた。久保田さんが物心ついた時、すでに両親は不仲で、スナック経営をしていた父親は不在なことが多かった。

母親は、久保田さんが手のかからない子どもだったこともあってか、勉強のことも友達関係のこともまったく口を出さず、放任。

しかし、久保田さんの8歳下の妹は、独立心の強い久保田さんとは正反対で、妹と母親はお互いにベッタリだった。

やがて久保田さんが高校生になった頃、父親がまったく帰ってこなくなった。どうやらギャンブルで借金を作った上、不倫相手の元へ転がり込んだようだ。

両親は久保田さんが17歳の時に離婚。母親は久保田さんと妹を養うため、喫茶店を始めた。

この頃、高校のテニス部に所属していた久保田さんは、OB会からコーチとして派遣されてきた、7歳年上の大学院生の男性と出会った。高2の時にキャプテンに選ばれると練習計画の相談などでこのコーチと2人で会うことが増え、数カ月後には交際に発展した。

テニスのプレー中の男性の手元
写真=iStock.com/Dimensions
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大学の薬学部を卒業した後、久保田さんは製薬メーカーに入社。男性は大学院を出た後、ゼネコンに就職し、一級建築士として働いていた。

久保田さんは23歳の時に結婚すると、実家を出た。