2025年3月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。キャリア部門の第4位は――。
▼第1位 とことん落ちて失うものはない…「本社を麹町の一等地から川崎へ」泉屋・先代社長にはできなかった決断を娘が
▼第2位 百貨店から追い出され「お徳用」を量産…「クッキーといえば泉屋」の知られざる栄光と転落
▼第3位 ようやく和式便器を洋式便器にできた…赤字続きの「トヨタの下請け工場」を蘇らせた"婿入り社長"のアイデア
▼第4位 だから13坪の「まちの本屋さん」は生き残れた…女性店主が25年前から続けている"超アナログ"な手法
▼第5位 愛車はフェラーリから軽バンになった…「殺処分に最も近い問題犬」を全国から引き受ける元実業家(54)の情熱
一冊の小説を1300冊売る書店
大阪市の長堀通り沿い、地下鉄の谷町六丁目駅前にある隆祥館書店は、わずか13坪の小さな町の本屋さんだ。この店の店主、二村知子さんは、この店だけで小説『満天のゴール』(藤岡陽子著)を約1300冊売った。全国の書店で、この小説の売り上げ冊数は日本一。
それだけではない。ノンフィクション作家、佐々涼子さんの『エンド・オブ・ライフ』は600冊超、同じくノンフィクションの『典獄と934人のメロス』(坂本敏夫著)は約800冊を販売した。もちろん、どちらも日本一の冊数だ。二村さんが日本で一番売った本は、ほかに何冊もある。
「感動した本に出会うとね、体のなかからマグマが湧いてくるみたいにぶわーってなって。これは伝えなあかんって思うんですよ」
小柄な身体の内側で渦巻くマグマに衝き動かされてきた二村さん。彼女が「死にたい」と願うほど人生のどん底にあった時、救ってくれたのが本と隆祥館書店のお客さんだった。
日本シンクロ界のレジェンドのもとで
二村さんは1960年、隆祥館書店を営む父母の長女として生まれた。1949年に隆祥館書店を創業した父の善明さんは争いを好まない穏やかな人で、お客さんが来れば閉店の間際でも招き入れ、1時間でも、2時間でも話し込んだ。
二村家と隆祥館書店を描いた書籍『13坪の本屋の奇跡 「闘い、そしてつながる」隆祥館書店の70年』(木村元彦著)によると、善明さんは「河出書房の全集を大阪で最も売った書店員」。善明さんは「本を読むことで地域の人たちのリテラシーが高まる」「本を商業主義の餌食にするな」という志を持って書店を創業したと同書に書かれている。
母の尚子さんは「商才があるタイプ」(二村さん)で、書店の経理など経営面を担った。店を法人化した時の代表に就いたのも、尚子さんだ。
お客さんへの対応や本にかける愛情、商売として本を売る実力を見ると、両親の遺伝子が二村さんにしっかりと受け継がれたことがわかるだろう。しかし、その遺伝子が覚醒するのはもう少し後のこと。
本に囲まれて育った二村さんだが、夢中になったのは中学校1年生の時に水泳教室「浜寺水練学校」で始めたシンクロナイズドスイミングだった(現在のアーティスティックスイミング。ここではシンクロと記す)。
「友だちのお姉さんが、シンクロしてはって。その友だちから一緒にやろうって言われて始めました」