今でも、仕事と時間を奪い合ってお行を続けています。なぜ続けるのか。1つには、人がお話ししたくないようなことを聞き出してノンフィクション作品にまとめるという私の仕事と関係しています。世の中には、辛いことを胸に閉じ込めたまま笑って生きている人たちがいます。光の当たっていない世界や人の話を、同じようにもがきながら頑張っている人に読んでもらいたいのです。
自分でも度々辛い思いはしてきましたが、その経験だけでは、慈悲の心をもってどんな人でも受け入れていくことには限界があると感じています。お行をして自分と向き合い、自分に厳しくしなければ、相手の心のひだに入っていくことは難しいと思います。
それに、取材を続けていくなかで、自分の心が相手のほうに傾きすぎてしまうこともあります。心と体を洗濯して自分を真っ白な状態に戻してから、相手と向き合うためにもお行は必要です。
その後も、多くの女性を取材し続けるなかで、様々な理由で苦しんでいる女性に出会います。それで、気軽に立ち寄れるミニ駆け込み寺をつくりたいと考えたのです。
そのためには僧侶の資格を取らなくてはなりません。99年にまず得度をし、そこから修行を積んで僧侶になりました。真言宗の場合はさらに住職の資格が要ります。僧侶になるのに8年、住職の資格をいただくのに2年かかりました。私はお寺の子ではないのでお寺がなく、今は高野山の奥の院や金剛峯寺に出仕し、法話をさせていただいています。
高野山大学大学院では遍路を研究しています。働いている人でも、今行きたいと思ったらすぐに行ける遍路を、研究してみようと思ったのです。連休というのはだいたい2日、3日間ですから、2泊3日でつないで歩いていく“つなぎ遍路”をしています。四国一周は、約1400キロ。東京駅から鹿児島中央駅くらいの距離です。歩くと40日から60日ぐらいかかります。連休を使うと想定して2泊3日で毎月歩いてつなげていくと、私の場合、ちょうど1年で回ることができます。
東京近郊にあるお勧めの修行の場は、筑波山と御岳山と大岳山です。高尾山はブームで混んでいるので、今は遠慮しています。
もともと霊山に行くというのは「死に行く」といわれ、生まれ変わるということです。山に修行に行くと、新しい自分を見つけたり、別の見方ができるようになると思います。そうした前向きな意味もありますので、働き盛りの方にこそ行ってもらいたいと思います。ただ、いきなり行くのではなく、家の周りを歩くなど少し練習をしてから行きましょう。山に合った靴や服装を選ぶことも重要です。