「天皇の父親」が悩みの種に…
天皇の父親がどんな待遇を受けるかを考えるにあたっては、現行法上、天皇の母親が必ずしも「皇太后」になられるとは限らないことが参考になる。
戦前に書かれたものではあるが、宮内省図書寮編修課長などを歴任した歴史学者・芝葛盛による皇太后の解説を次に示そう。
「現制に於ては皇太后は天皇の御母を云ひ、皇太孫若しくは支系の皇族の天位を継がれたる場合には先帝の皇后を云ひ、陛下の敬称を奉る。(中略)往時に於ける尊称、追贈のことは行はれない」――国史研究会編『岩波講座日本歴史 第10巻 皇室制度』(岩波書店、昭和9年)47頁。
皇太孫や傍系皇族が即位された場合には、新帝の母親ではなく先帝の皇后が皇太后になられるという。この仕組みが今日まで引き継がれているのである。
現皇室典範は「王が皇位を継承したときは、その兄弟姉妹たる王及び女王は、特にこれを親王及び内親王とする(※第7条)」と定めているが、母親には考慮を払っていない。それゆえに、皇母といえども親王妃どころか王妃にすぎない場合さえありえる。
このことから類推すれば、天皇の父親も同じように、親王もしくは王のまま留め置かれるとみるべきだ。
しかし、本当に一般皇族として扱われるのであれば、将来その存在が宮内庁の悩みの種となってしまうこともあるかもしれない。
「デンマーク王配」の二の舞は避けたい
宮中における席次や歩く順序は、旧皇族身位令に準じており、「親王、王ノ班位ハ皇位継承ノ順序ニ従フ(※第2条)」とされる。したがって、継承資格がない天皇の父親は、皇室内でもかなり低い地位に置かれることになるはずだ。
ここで思い出されるのが、前デンマーク女王マルグレーテ2世の夫君、故ヘンリック王配――自身の待遇の悪さをしばしば訴えてマスコミを賑わせた――である。
2002年1月、全デンマーク国民を驚かせる事件が発生した。新年恒例の宮中晩餐会が催され、療養中の女王に代わって王太子(※現フレゼリク10世)が接遇したのだが、この時に息子よりも地位が低いことを思い知ったヘンリックが、ショックから数週間にわたりフランスの城館に逃避してしまったのである。
ヘンリックは当時、マスコミの前で次のように不満を爆発させている。「父親は誰もが自分の家の主人になりたがるものです」