思考、判断、行動いずれもスピード第一――。企業トップの強力な駆動を社内外に伝達するには、“時間差ゼロ”でその頭と手足になり切れるストイックな黒子役がぜひとも必要だ。

いくらでも“悪者”になります

日産自動車  
佐藤直子氏

秘書にとって大切なのは、どのお客様に対しても、同じように平等なサービスを提供することです。そのため、担当役員との面会スケジュールの優先順位についてはいつも悩み、秘書になって26年経った今も慣れません。海外の要人などVIPとのアポイントメントは最優先になりますが、通常は役員の意向を聞いたうえで、希望日が近い方からスケジュールをお入れしていくことになります。

お断りしなければならないときも、あります。その場合も、相手の立場に立って対応します。お待たせするのは失礼だからと、すぐにお断りする方法もあります。でも、先方に必ずしもこちらの意図を汲んでいただけるとは限りません。もし、心証を害せば、役員、さらには会社のイメージにも影響が及びます。

そこで、わたしの場合、お断りするとわかっていても、秘書がクッションになっていったん保留にさせていただき、そののち、今はどうしてもお受けできないこと、時期をずらせばお応えできるかもしれないことをお伝えします。そして、3カ月後ぐらいに折を見て、こちらからご連絡を差し上げます。

役員が、面会をお断りした方とたまたま外で鉢合わせしてしまい、「秘書が断ってしまったようで申し訳ない」と、秘書を盾にすることもあります。そんなとき、わたしたちはいくらでも“悪者”になります。それは信頼してもらっている証しで、秘書の仕事をしてよかったとうれしく思う瞬間でもあるんです。若いときはよく、ミスをしてダブルブッキングをしてしまい、あとから日程が入った案件のほうを優先せざるをえないこともありました。ミスはミスです。先約の方にはひたすらお詫びし、正直にすべてをお話ししました。ご了解いただき、一番近い別の日程をご提案しました。

役員とのアポイントは、ご挨拶の面会にしろ、重要案件にしろ、30分が基本です。短時間で終われば、役員もほっとひと息つけますし、それも大切な時間です。昔は「どんどん入れていいよ」といわれ、張り切ってすき間なく入れたスケジュール表を見て、「きれいに入った」と喜んだものの、役員はトイレに行く暇もなくなってしまいました。予定をこなすのはわたしではなく役員です。今は案件と案件の間は30分あけます。株主総会の時期や新年などの繁忙期は、急の案件にも対応できるよう、1週間ぐらいスケジュールをあけたりもします。