ひと握りの企業が生み出す「成果」

急速に拡大する企業はなかなか基準にはなりえない。圧倒的多数は、街角の青果店や理髪店のように、小さな事業を続けることにだいたい満足している。こうした事業者はなくてはならない存在だが、革新や成長の原動力になることはない。

これに対し、急成長する数少ない企業──先進国では一般に企業全体のわずか4~6パーセント──が、その国の雇用と革新と生産性の拡大においてとくに大きな割合を占めている。

2009年から2011年にかけて、アメリカで急成長する企業10万社は、雇用主としての数では全体の2パーセントにすぎなかったが、国全体の実質的な雇用創出の3分の1以上にあたる420万の新規雇用を生み出した。

2011年から2017年の期間で、成長が著しいアメリカ企業1万4000社を平均すると、創業から8年、従業員が200人、年間売上高は3700万ドルだった。これらの企業で合計300万人近い従業員を雇用していた。

日本には「ガゼル」のデータがない

こうした企業のなかでも、創業から5年未満のとくに新しい企業が非常に重要な役割を担っていて、公的統計で独自のニックネームを頂戴している。「ガゼル」と呼ばれる。地球上で最も敏捷ですばやく動く動物だ。

トムソンズ・ガゼル
写真=iStock.com/KenCanning
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1980年代から1990年代にかけてアメリカでは、工場労働者一人あたり生産高の増加分のうち、なんと60パーセントが、創業から5年未満の企業によるものだった。

日本では他の地域と同様、ガゼル企業はまれだ。2009年から2013年にかけて、新規参入した企業による生産力拡大のうち半分を、わずか4パーセントの企業が生み出していた。これらのガゼル企業は設立から4年後に、平均して27人の従業員を雇用し、一人あたり売上高は5800万円(43万ドル)だった。

これに対し残りの新規企業の平均は、従業員数7人、一人あたり売上高は1450万円(11万1000ドル)にすぎなかった。

残念なことに、ほかの先進国とは異なり、日本では急成長する企業の記録を定期的にとっていない。政府は自分たちが重要だと考える事項の記録をとるものだとすると、日本が記録をとっていないという事実は示唆的である。