※本稿は、郷原信郎『法が招いた政治不信 裏金・検察不祥事・SNS選挙問題の核心』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
検察は捜査の方向性をなぜ誤ったのか
「自民党派閥政治資金パーティー裏金事件」の検察捜査は、方向性を誤ったものであり、それが、国会議員はほとんど処罰できず、所得税の納税も全く行われないという結果となり、国民の強い不満と批判につながった。
検察は、なぜ捜査の方向性を誤ったのであろうか。
事件の発端は、2023年の日本共産党の「しんぶん赤旗」日曜版の記事と神戸学院大学教授・上脇博之氏の東京地検への、20万円超のパーティー券の購入者の不記載という形式的な事案の告発だった。
一般的には告発事件というのは、特捜部などの検察捜査において積極的に取り組む案件とはされないことが多い。しかも、発端は日本共産党の機関紙の報道である。特捜部としては、告発を受理した以上、所要の捜査として派閥事務担当者の取調べを行わざるを得ないという程度の認識から始まったと思われる。
ところが、その告発事件の捜査の過程で、派閥政治資金パーティーをめぐって、ノルマを超えた売上が収支報告書に記載不要の金として派閥から所属議員側に還流しており、それがかなりの金額に上ることが明らかになった。
「やらされ感」から始まった特捜部の捜査
政治資金パーティーの問題で派閥事務担当者が聴取されていることに不安を覚えていた自民党関係者の反応もあって、自民党派閥政治資金パーティーをめぐる裏金事件として、マスコミで大きく報道されるようになった。検察としても、裏金の実態の全体的解明に乗り出さざるを得なくなった。
それが、派閥政治資金パーティーをめぐって、ノルマを超えた売上が収支報告書に記載不要の金として派閥側から所属議員側に還流した金額が、清和会(安倍派)では5年間で総額5億円以上に上っていたという、大規模な裏金問題に発展することになった。
多数の派閥所属議員の取調べのため、全国の地検から多数の応援検事を動員して大規模捜査を行うことになったが、特捜部側には、もともと「やらされ感」があり、積極的に捜査に取り組もうとした事件ではなかった。要領よく捜査処理を行って、24年1月の通常国会開会前に処理を終えようとした。
従来の政治資金規正法違反事件のパターンにあてはめ、還流金についての政治資金収支報告書の不記載を政治資金規正法違反ととらえて、捜査処理を行おうとしたのも、もともとの告発事件への特捜部側の姿勢からすると自然な流れだったといえる。
多くの国会議員に関する、政治的な影響も極めて大きい問題だった。そうであるからこそ、事案の実態に即し、違法な寄附の処理や税務問題なども含めて、世の中の納得が得られる処分をすることが必要だった。