墓守の手軽さなどから従来型の墓石ではなく、散骨や自然葬を行う人が増えている。森林ジャーナリストの田中淳夫さんは「現行の法律で想定されていない散骨や樹木葬は地元住民の反発を招き、時に思わぬトラブルを招くおそれがある」という――。

様変わりする日本のお墓事情

三重県大台町。紀伊半島の山をかき分けるように奥へ奥へと進むと、道路沿いに「いのちの森」と書かれた木製の看板が現れた。この森が、自然宗佛國寺の開いた森林自然葬墓地である。

三重県大台町の「いのちの森」。この森に安置していた遺骨が荒らされた。
筆者撮影
三重県大台町の「いのちの森」。この森に安置していた遺骨が荒らされた。

自然葬とは散骨を意味する。通常の散骨は海洋に撒くことが多いが、山中に撒く森林散骨もある。この「いのちの森」では、生前契約された方が亡くなると、木の骨壺に砕いた遺骨を詰めてこの森の中にそっと置かれる。時とともに骨壺も骨も土に還るというわけだ。この墓地を開いた黙雷和尚によると、開設して約10年、40人ほどが生前契約し、うち12人がこの森に眠っているという。

高齢化の進む日本では亡くなる人が増え続け、それに伴いお墓事情は様変わりしてきた。従来の墓石を設置する墓はさほど増えず、むしろ墓じまいが進んでいる。また従来の様式とは違う多様な墓地が生まれ始めた。

なぜ散骨や樹木葬が増えているのか

終活サービスを提供する企業が実施した「お墓の消費者全国実態調査(2025年版)」によると、昨年求められたお墓のうち樹木葬は48.5%を占め、従来の一般の墓(17.0%)の約3倍を占めた。ほか納骨堂や合葬墓も増えている。

樹木葬にはさまざまな形態があるものの、基本は石の墓標を立てるのではなく樹木を植える、もしくは樹木の根元に埋葬するものだ。遺骨も墓標とする樹木も、いつか自然に溶け込むことを前提としている。また遺骨を海や森に撒く散骨(自然葬)も増えている。こちらも自然に還ることを願う気持ちがある。

ただし、樹木葬という名称を冠しているものの、実態は遺骨をコンクリートのカロート(遺骨安置場所)に納める墓地もある。樹木さえなく石板を設置する墓地も登場している。樹木葬人気への便乗だろうか。これでは自然に還る理念は活かされず、単に安価で永代供養されることだけが特徴の墓地だと言えよう。

ともあれ、なぜ散骨や樹木葬が増えたのだろうか。私は樹木葬墓地を開いた人々に取材して歩いたことがあるが、まず浮かび上がってきたのは、従来の石墓に継承不安があることだ。