性格を悪くするのではなく“演技”をしよう

このような話をすると、「それって性格が悪い人間になれってこと? 自分はそんな人間にはなりたくない」と抵抗感を抱く人もいるでしょう。もちろん、その気持ちはよく理解できます。

しかし、とよかわは、性格の悪い人間になることを推奨しているわけではありません。あなたの優しい性格を変えるのではなく、「マウントを取られにくいように演技しましょう」と提案しているのです。

「人は優しい生き物」だと、とよかわは思っています。しかし、状況によっては、イライラしたりツンケンしたりしているときは誰にでもあります。そのときに、マウントのターゲットに選ばれないためには、「演技力」も必要なのです。

本書(『マウント取る人 消す魔法』)の中で紹介してきた魔法や切り返しを駆使しても、マウントを取るのをなかなかやめてくれない人もいるかもしれません。そうであるなら、その相手はなかなかの強敵です。

あまりに酷い場合は上司や人事部、公的機関などに相談するのも手ではありますが、環境を変えられない場合は、あきらめずに定型の切り返しを続けてみてください。(第2回参照

しょせん相手はトカゲモード(※)なので、たいしたことはできません。小さい子どもが筋の通らない駄々をこねたときに「はいはい、わかりましたよ〜」「はいはい、○○しましょうね〜」などと大人が軽くいなすように、なにも考えずにノールックで対応するのが正解です。

[※トカゲモード=トカゲ脳(爬虫類脳)。トカゲ脳は相手にイライラしたり腹が立ったりして、人間としての冷静な脳ではなくなっている状態のこと。人間モードに戻るためにはメタ認知や抽象化が必要。本書の第2章参照]

会社の業務でも、月初に必ずやるべき事務処理がありますよね? それと同じ感覚で淡々と対応すればいいのです。そのうち相手はあきらめるか、飽きて他の相手を見つけてくれるでしょう。

「自分で選んでいる納得感」があるとへこたれない

このような対応は俗にいう「スルー」と限りなく近いですが、スルーするにしても、「なんのためにスルーするのか」はとても大切です。

マウントの切り返し方についてお伝えした際に、「なんのために切り返すのか」が大事だと伝えたように、目的を持ってスルーすることが大事なのです。

ただスルーし続けるだけだと、うっすらとした拷問を永遠に受け続けているような心境になることがあります。これは、目的なくスルーしているからです。

そうではなく、「自分はトカゲやなくて人間でおりたいから、マウント劇場の登場人物にはならんぞ。自分のゴールに集中するねん」と確固たる意志を持ったうえでスルーしてください。

要は、「納得感」が大事なのです。「自分で選んでいる」という納得感があれば、人は多少の困難にへこたれることはありません。

また、やっとその人のマウントが収まったと思ったら、今度は別の人がマウントを取ってくることもあります。

「やれやれ、今度はこいつかよ……」とうんざりしそうになるかもしれませんが、まぁ、人生なんてそんなものです。マウントは、いい、悪いではなく世の中にあたりまえのようにあるものであって、いってみれば雨みたいなものです。

外のカフェでのディスカッションで話している男性に耳を傾ける女性
写真=iStock.com/georgeclerk
※写真はイメージです

「雨よ、降るな〜、絶対に降るなよ〜!」と祈ってもどうしようもないですよね? どうしようもないことに意識を向けているよりも、「雨が降りそうだから傘を持って行こう」「雨予報だから、外出の予定は別の日に設定しよう」など、自分のなかで選択肢をいくつも持つことを優先するのが賢明です。

避けられない理不尽のなかに身を置き続けることは大変な苦しみですが、選択肢を持つことで、主体的に生きることができます。