最も重要なツールはSNSの「武器化」
ロシアのアクティブ・メジャーズを迅速に探知していながら、プーチンが望んだトランプをやすやすと当選させた米インテリジェンス・コミュニティには敗北感が漂った。
実は第一期トランプ政権発足後もロシアは工作を続けていた。そして今も「ロシア側はわれわれと闘っている」とダニエル・ホフマン元CIAモスクワ支局長は米外交誌『フォーリン・ポリシー』電子版で警告している。
もう一つの米外交誌『フォーリン・アフェアーズ』2019年5/6月号では、マイケル・モレル元米中央情報局(CIA)副長官らが「米国の情報機関はソーシャル・メディア(SNS)の『武器化』というロシアの最も重要なツールに気付いていなかった」と、大失敗を指摘している。
元副長官によると、ロシアが米国の選挙システムの土台に打撃を与えるために工作を開始したのは2012年のことで、2014年には実行段階に入ったという。米情報機関の内部では、ロシア情報機関がSNSを利用していることは周知の事実だった。しかし米国に対してもSNSを使用していたことを探知するまでには、発生から4年もかかった。つまり、2018年になって初めて知ったというのだ。米国内で使われているSNSを監視する情報システムが米情報機関にはなかったという。
1億2600万人に届いたロシア情報機関のメッセージ
米上院情報特別委員会が2018年に発表した報告書で、「ずっと大規模な形でロシアはSNSを操作する工作を行っていたことが分かった」という。ミュラー特別検察官も2018年になって、ロシアの工作機関「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」に対する捜査を行った。特別検察官は、フェイスブック、ツイッター(現在のX)、グーグル、ユーチューブ、インスタグラムなどが「ロシア人の使用」を確認したアカウントでIRAが行った投稿を分析した。その結果、すべてトランプ大統領に恩恵をもたらそうとする内容だった。銃砲所持や移民問題で「保守派を活気づけ」、リベラル系米国人の活力を奪うことを目的にしていたという。
IRAが設けた20のフェイスブックのページは3900万の「いいね」、3100の「シェア」が付き、1億2600万人に届いたと言われる。これほど多くの米国民にトランプ支持を訴えることができた工作の方が、サイバー攻撃より効果的だったに違いない。