2014年から始まっていた対米SNS工作
ロバート・ミュラー特別検察官が2019年3月に公表した「2016年大統領選挙へのロシアの干渉に対する捜査報告書」に、IRAが行った米国のSNSに対する秘密工作の経緯が明記されている。
IRAはプーチンの側近で「プーチンの料理人」と言われた実業家、エフゲニー・プリゴジン(2023年8月、搭乗するビジネスジェットの墜落で死亡)が2012年に創設した。プリゴジンは1961年、レニングラードに生まれ、若い時は犯罪を繰り返し、1981年に懲役12年で服役。ソ連崩壊後、カジノやレストランを開業して、同郷のプーチンと知り合った。2012年ロシア軍に食料を卸し、利益を得てIRAを設立した。
IRAは2014年の時点で、職員600人以上、年間予算1000万ドル(約15億円)の規模に達した。この組織は実際には「トロール」と呼ばれる工作を展開した。トロールとは、虚偽の陰謀説をSNSに書き込んで、大量に拡散させる工作の拠点のことを言う。IRAはまさに、虚偽の陰謀説などをSNSに書き込み、大量に拡散する工作の拠点なのだ。実際はプーチンのプロパガンダ工作の一翼を担った「民間情報機関」と言えるだろう。
対米工作は大統領選挙の2年前、2014年から開始した。アレクサンドラ・クリロワ、アンナ・ボガチョワの2人のIRA女性工作員が2014年6月4日、米国に入り、アメリカ人になりすました多数のSNSのアカウントを確保した。
ラストベルトを標的に「トランプ応援」メッセージを流布
選挙年は、フェイスブックでは2016年4月から11月の間に、特に中西部の「ラストベルト」(錆びついた工業地帯)と呼ばれるミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州などの有権者に向けてトランプを支援し、ヒラリーの名誉を傷つける次のような寄稿を流した。例示しておきたい。
「ドナルドはテロの打倒を求める。ヒラリーはテロのスポンサーだ」
「トランプは良き未来へのわれわれの唯一の希望」
「オハイオはヒラリーの投獄を望んでいる」
「ヒラリーは悪魔だ。彼女の犯罪とウソは彼女がどれほど悪いか証明している」
こうした主張が1億人を超える購読者に閲覧された。