アルコールによる犯罪を3回も繰り返す

それからは、まともな仕事に就かず、その日暮らしの毎日を送る。日払いで得た肉体労働の対価は、アルコールに消えていった。

アルコール依存症
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2回目の服役は、32歳の時だった。酔いつぶれて他人の敷地内で寝込んでしまい、「住居侵入罪」、および、見つかった時に家主の手を振り払ったということで、「暴行罪」も加わった。3回目の服役は、「詐欺罪」である。酔っ払って酒代を払い忘れたという、無銭飲食だった。そして4回目は、カップ酒一本を盗んだ「窃盗罪」だ。

4回目の服役中、初めて「酒害教育」なるものを受けた。それにより、近藤さんとつながることができたのである。

満期で出所した時には、もう50歳を過ぎていた。

「断酒する」とは言わなかった理由

私は、平沼さんに尋ねる。住まいと仕事を紹介するうえで、確認しておかなければならないことがあったのだ。

「受け入れてくれるかもしれないところなんですが、そこは、もちろん禁酒です。その点、大丈夫ですか。まあ、平沼さんは、もう半年も、いや、その前の服役中もですから、合計3年半近く、アルコールを断ってるんですもんね。大丈夫ですよね」

「いや、ムショにいる時のことは、カウントしちゃいけないよ。まあ正味、5カ月半だな。俺な、一生断酒しようなんて思わないようにしてんだ。思っただけで、プレッシャーかかって、俺みたいに意志の弱いやつは、すぐにこけちゃう。だから、きょう一日だけは、飲むのはよそうって、それくらいの目標でいいんじゃないかと思う。その一日一日の積み重ねで、振り返ったら1カ月断酒してた、2カ月断酒してたって、そんなふうな気持ちでいたほうが長続きするって思うんだ」

絶対に断酒します、と言われるよりも、ずっといい。彼は、自分の気持ちを正直に語ってくれる人なのだろう。それに、断酒の方法としても、そのほうが正しいと思う。

「分かりました、平沼さん。明日には、そのビルメンテナンス会社に住み込みで働けるかどうか、はっきりすると思います」

受け入れ先として、私の念頭にあるのは、大学の頃からの友人が経営する会社だ。