別居の妻に「甘えるな」「早く帰ってこい」
生活費は7万円のまま増えないため使えるお金もなく、ベビー用品や子ども服を買うお金はA子さんの親が出しています。さらに夫は、子どもが苦手だと言って、育児を一切手伝ってくれませんでした。
ママ友付き合いもできず、昔の友人に会うこともできず、A子さんはどんどん追い詰められていきました。
夜眠れなくなり、食欲がなくなり目に見えてやつれてきたA子さんが「2週間だけ実家に帰りたい」と言うと、夫は渋々了承しました。
長男を連れて実家に帰り、体を休めたりあちこちに出かけたりしていると体調は回復しましたが、家に帰る日が近づくとまた動悸がしてくるようになりました。
父親を通して、心身がつらいのでしばらく別居したいと夫に連絡してもらいました。しかし、夫からは、直接LINEでA子さんに「甘えるな」「早く帰ってきて掃除をしろ」という返事が来るばかりです。
これでは話にならないと思い、A子さんは私の事務所に相談にいらっしゃいました。
A子さんはこれまでの経緯を説明したあと、「実家に帰って初めて気づいたんですが、私、結婚してから出産の時以外、タワマンのある地域からほとんど出たことがなかったんです」とおっしゃいました。
それほど気詰まりな生活を送ってきたのです。「今のままでは結婚生活を続けられない……。まずは夫と関係修復の話し合いをしたいが、修復が難しければ別居を続けたい」ということで、依頼を受けました。
29万の婚姻費用を「5万円」と主張
夫に連絡を取り、A子さんのつらかった気持ちを具体的なエピソードとともに伝えて、修復できないかと聞きました。しかし夫は「主婦なのだから戻ってきて家事をするべき」「マンションの価値を損なわないようにするのは財産の維持行為であるので、家事の一環である」などと反論するばかりで、全く聞き入れてくれません。さらに「妻は関係を修復するつもりになったか?」と矢継ぎ早に連絡をしてきます。
A子さんは「夫が寄り添ってくれることはなさそうですね……」と落胆して、次は別居の話し合いに移行しました。
夫婦は別居中でも生活費(婚姻費用)を支払う義務があり、双方の収入と子どもの人数、年齢によって金額が算定されます。
A子さん夫妻の場合、夫はA子さんに毎月約29万円の婚姻費用を支払う義務があります。
夫に算定の根拠とともに婚姻費用の支払いを請求しましたが、夫が入金してきたのはわずか5万円でした。そして、「これまでは7万円で十分生活できていて、さらに別居により自分の出費が減るはずなので5万円と計算しました」という独自の主張を送ってきたのです。
5万円でA子さんと長男が暮らせるはずがありません。
この夫は交渉では言うことを聞かないタイプだと判断したため、婚姻費用分担調停を申し立てることになりました。