資産価値の維持が最優先の夫
ある日、夫がタブレットを落として床に大きな傷をつけたことがありました。その時夫はなんと、「物を落としそうな場所に何も敷いていなかったお前が悪い」とA子さんを怒鳴りつけたのです。
そして「床に傷がついたら査定額が下がる、どうしてくれるんだ」と言い出し、このタワマンを買った理由を話し始めました。将来価値が上がりそうな高コスパ物件だと聞いて、売却して利益を得るために購入したというのです。だから1円でも価値が下がらないように、きれいに使わないといけない。そのためにお前を主婦として家にいさせているのに……。そんなことを長時間にわたって怒鳴り続けました。
また、もらえる生活費が少ないこともA子さんの悩みでした。「これでやりくりをするように」と言って、月7万円の生活費しかもらえません。
しかも、夫の要求で買う壁や床の掃除用品の費用がかさむため、食料品や生活用品に回せるお金が極端に少ない状態でした。
近隣のスーパーは決して安いとは言えません。他に店が全くないため、比較して安い店で買って節約することもできないのです。せめて自転車が欲しいと言っても、「近くに何でも揃ってるんだから徒歩で移動しろ」と言われます。夫はほとんど外食なので、A子さんはひたすら自分の食べるものを切り詰めました。
「パートに出たい」と言うと、夫は「掃除をおろそかにするつもりか。そのために住まわせてやってるのに」と猛反対します。
景色のきれいなマンションに、近隣で何でも揃う便利な立地……。理想的な環境のはずが、実際は限られた生活圏で暮らし、夫の機嫌を損ねないように家をきれいに保ち続けるだけの自由のない毎日で、A子さんは1年もしないうちに精神的に孤立して、この生活にすっかり疲弊してしまいました。
タワマンの環境が募らせる孤独感
しかし同じ頃、A子さんの妊娠が発覚しました。「子どもが生まれたら夫も少し寛容になるかもしれない」と考えましたが、長男が産まれた後も、「マンションの価値を減らしたくない」「生活費を渡さない」という夫の考えは全く変わりませんでした。
食べ物をこぼす、よだれを垂らす……。赤ちゃんにつきもののそんな行動も、夫はマンションを汚す行為ととらえて、A子さんを「お前のしつけがなっていない」と激しくなじります。
気晴らしに長男と出かけようとしても、行き先は近所の大型スーパーや公園しかありません。休日も、夫は「外出は金がかかる、この辺にはなんでもあるからいいだろう」と言ってどこにも連れて行ってくれません。
理想的な子育て環境だと思って入居したはずが、タワマンの環境がますますA子さんの孤独感を深めていったのでした。