生き方への接近が始まる

1995年、収納カウンセラーの飯田久恵さんによる『生き方が変わる 女の整理収納の法則』あたりから少しずつ風向きが変わり始めます。まずタイトルが端的で、整理収納によって生き方が変わるという言及が登場するようになっています。具体的なハウ・トゥとしても、整理収納は「生き方」「価値観」の問題であり、まず「どう生きたいか」「何を持てばいいのか」といった「物を持つ基準を自覚」し、要・不要の基準を決めていこうという言及がみられます(45p)。近年の傾向に急激にぐっと近づいたといえそうです。

しかしまだ、近年とまったく同じではありません。ここで注目すべきことは2つです。第一は、飯田さんは、同書のタイトルには「少々気恥かしさ」を覚えると述べていたことです(4p)。つまり、整理収納と生き方を結びつけることは当時まだ珍しく、気恥かしさを覚えるような物言いだったのです。これに関連して、「整理収納は人が生きていくうえでとても大切な事柄のひとつだという確信」(5-6p)を飯田さんが持つことができたのは、先の町田さんの人生は整理だとする考えに影響を受けたことによるとも述べられていました。人生と整理収納を結びつける考えには、このような人づたいの系脈があるのかもしれません。

第二は、整理収納の目的論についてです。飯田さんは「掃除や片づけに時間を取られ、思ったように自分の自由な時間がつくれないと悩んでいる」独身女性を主な読者として想定し、そのような人々が同書を読んで「整理収納上手になり、自由な時間やゆとりが生まれ、より豊かな生き方が可能になれば」と述べています(3-4p)。先の町田さんにおける整理の目的は、家事をよりスムーズに行うこと、日常生活をより快適に過ごすことにありましたが、同書ではそれに「自由な時間」を生みだすことが加わっているようにみえます。しかしそこで何をするのかは、具体的には方向づけられていません。同書で述べられているのは、まさに自由に使ってよいとされる「自由な時間」が増えることで「豊かな生き方」が可能になるというだけです。しかしやがて、この「自由な時間」にある目的が結びつけられることになります。これは次節でとりあげます。

飯田さんの著作以後、状況は少し停滞しますが、1999年に生活評論家の沖幸子さんによる『「そうじ」のヒント 暮らしが変わる!生き方も変わる!』という著作が刊行されます。沖さんはハウスクリーニング会社の社長ですが、同書ではその専門的なノウハウにもとづいて、一般家庭における掃除について言及しています。

同書で目を引くのは、前回述べた修養としての掃除についての言及が見られることです。掃除は「自習自得の精神」と関係するもので、「心を込めてひたすらやることで、無心に自分と向き合うことができる」、「当たり前で平凡なことをまじめに取り組み、それを積み重ねていくことの大切さもそうじは教えてくれます」、「心から喜んでやるそうじは、まわりを気持ちよくさせ、感謝され、そして自分の生きがいにもつながってきます」といった言及がそれです(13p)。

私の解釈はこうです。1994年頃から、主に男性の経営者・管理者層を中心として広がり始めた掃除と修養についての考え方はやがて、ハウスクリーニング業関係者へと広がり、沖さんという女性経営者を伝って家事としての掃除とも結びつけられるようになった、という流れでここに至ったのではないか、と。

さて、ここまでが1990年代の動向です。もう舛田光洋さんの『夢をかなえる「そうじ力」』の刊行まで間が短くなってきましたが、まだ掃除・片づけと夢は結びつけられていません。結びつくのは、これからです。