70歳以上だけに許された「お得な制度」
3割負担で12万円であれば、2割負担を代数計算式でXを求めると、答えは「約7万3000円」のはずである。
また1割負担ならば、「約3万7000円」が数学的に正しいことになる。
それが2割負担で1万8000円あるいは8000円とぴったりの数字になっている。となると、さらに減額される全く別のカラクリがあることがわかった。
それが、「高額療養費の外来特例」である。
「外来特例」とは、所得によって、たとえ2割負担で約7万3000円となったとしても、月に支払う上限額は「1万8000円」あるいは「8000円」までで、それ以上の支払いはすべて戻ってくる制度である。
手術後に検査、診察を何度受けても、同じ月内であれば、超過分はすべて戻ってくる。
年収156万円未満の住民税非課税世帯、月額13万円程度の所得者であれば、上限額「8000円」となる。筆者はここに該当する。
考えてみればわかるが、65歳を過ぎて、公的年金を主な収入源として暮らしている人ならば、370万円以上の収入を得ている人は非常に少ない。
つまり、70歳以上であれば、ほとんどの人が「1万8000円あるいは8000円」の負担で、両眼「12万円程度」の白内障手術を受けることができる。非常にお得な制度である。
今回の制度改正に伴い、来年8月から外来特例の見直しも行われる。
筆者と同じ156万円未満の収入であれば、5000円増の「1万3000円」となる予定だ。
それでも、70代の患者が白内障手術に殺到すれば、高額療養費の総額はうなぎ上りとなり、ますます現役世代の首を締めるはずだ。
「金の切れ目が命の切れ目」な社会はよくないが…
原発不明がんで1月28日に亡くなった経済アナリストの「モリタク」こと森永卓郎氏もオプジーボという高額のがん治療薬を使い、高額療養費の公的補助を受けていた。
モリタクさんは2003年の『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)で、高額療養費を取り上げ、次のように批判していた。
「(当時の)小泉内閣の医療制度改革で、高齢者が医療費の自己負担分を無制限に窓口で負担しなければならなくなり、高額療養費の自己負担限度額が引き上げられた。これで医療の格差が進む」
小泉内閣がモデルとしたアメリカの国民保険制度にも触れ、「(アメリカでは)盲腸の手術をするだけで1回300万円も取られるから、手術にも行けなくて盲腸で命を落とす者も少なくないという。低所得者層にとっては、文字通り金の切れ目が命の切れ目になってしまう」などと批判していた。
いずれ日本もアメリカのような社会となると予言していた。
出版から20年以上過ぎたが、モリタクさんの予言が外れたことは幸いである。それも、現在の高額療養費の自己負担限度額引き上げの議論を聞けば、いまのところ日本はアメリカと違い公正公平な社会に近いのだろう。
この先も国民皆保険制度は何とか堅持されるのだろうが、「8000円」という格安の白内障手術などが続けば、モリタクさんが危惧していた社会保険の財政がパンクする可能性は十分にある。
近い将来、「金の切れ目が命の切れ目になってしまう」社会が到来するかもしれない。