高銀金融117は建設開始から7年後の2015年にディベロッパーの高銀地産公司が資金難で破綻、工事がストップしてしまった。その後、野ざらしとされてきた。ちゃんと壁を作った主塔部はいいが、隣にある付設ビルは柱がむき出しのまま。長年、風雨にさらされてきたので、いたるところにサビが浮いている。
周囲の高層マンションはというと、落ち着いた外装、広い歩道、緑豊かな庭園など、高級感が漂う。ただ、建設中断期間が長かったためか、建物の隙間から雑草が顔を出すなど、早くも廃墟感が漂い始めていた。
これら長年放置されていたマンションの工事が再開されていた。近隣にあった食堂で話を聞くと、2022年秋から建設が再開されたという。今さらこのゴーストタウンを完成させてどうしようというのか? その裏側には中国不動産業界の苦境が隠されていた。
予約販売がもたらす社会不安
建設途中で工事がストップした不動産のことを尻尾が潰れた蛇になぞらえて「爛尾楼」と呼ぶ。実はこうしたランウェイロウはさほど珍しいものではなく、中国各地に存在してきた。
ランウェイロウがしばしば社会問題になる背景として、不動産の予約販売制が挙げられる。中国では、不動産の建設中に販売契約が完了するのが一般的で、契約してから完成までには平均1~2年がかかるとされる。
つまり、購入者にとっては建設中の段階で住宅ローンの返済がはじまってしまう。したがって、もし不動産会社の資金繰りが行き詰まる、資材が高騰するなどのアクシデントによって建設工事がストップすれば、住宅ローンは支払わなければならないのに、物件は引き渡されないという悪夢のような状況に陥る。
最古のランウェイロウの一つと言われている重慶市の瀛丹大厦はその典型だ。1999年の着工から四半世紀も未完成のまま放置されている。購入者たちは長年抗議を続けてきたが、なんと2020年になってようやく購入代金が返済されて決着した。この20年で物価が大きく上昇したことを考えれば大損である。
予約販売は購入者にとってはリスクだが、ディベロッパーにとっては速やかに資金回収ができる、ありがたい制度だ。少ない資本で大きな建設プロジェクトを実施できたり、あるいはいち早く次のプロジェクトに着手できたりとメリットが大きかった……少なくとも、これまでは。
その状況は2021年に始まった不動産危機によって終わりを告げた。それまで好調だった予約販売の件数が急激に減ったため、ディベロッパーのキャッシュフローも激減したのだ。すなわち、不動産会社には新たに現金は入ってこないのに、過去に予約販売で売却済みのマンションを完成させるための債務ばかりが残り、現金が出ていくだけの状態になる。そのため資金不足で工事が中止になるマンションが増えていった。