「もののあわれ」と思考形態

【養老】日本人は物事が起こって言葉が生じてくる傾向が強いと思うんですね。その事例として、日本人は季節が変化して、折に触れて何かを感じる。それを「もののあわれ」だというでしょう。そこから詩や歌が生まれる。日本人はそういうふうに言葉を捉えてきたわけです。三島(由紀夫)のように花鳥風月がない人は、日本人では少数派だと思いますよ。

三島事件。バルコニーで演説
三島事件。バルコニーで演説する三島由紀夫(1970年11月25日、市ヶ谷駐屯地にて)[写真=ANP scans 8ANP 222)/CC-BY-SA-3.0-NL/Wikimedia Commons

僕は「上」と「下」という言い方をよくするんですが、「上」は言葉(頭)、「下」は実態のことです。つまり、日本人は「下」が「上」に影響を及ぼす。どちらかというと「下」に寄った言葉なんですね。だからたとえばオノマトペが日本語には豊富にありますね。「ニャーニャー」「がやがや」といった擬音語、「つるつる」「じろじろ」といった擬態語。日本人は感覚をオノマトペにするのですが、欧米系の人たちはダメなんですよね、幼児言語だという認識なので。