「忘れる」ことに恐怖心を植え付けてはいけない
これと同じで、一時的に忘れてしまうことは、全く悪いことではないのです。むしろ、覚えるために必要なプロセスを踏むことができているという意味では、良いことだと言えるのです。それにもかかわらず、「なんで忘れたの!」と親御さんが怒ってしまうと、お子さんが「忘れる」ということに対して恐怖心を抱き、暗記に対して臆病になってしまう可能性があります。
「忘れる」ことに対する恐怖心は、実はすごく厄介なものであり、健全な暗記を阻害してしまうことがあります。例えば、東大生は暗記の勉強方法がかなり特殊な場合が多いです。
自分自身を振り返ってもらいたいのですが、みなさんは「70個の単語を1週間で覚えなければならない」と言われたら、どんな覚え方をしますか? おそらくは70個を7日間で割って、1日10単語ずつ勉強し、7日間で70単語を覚えることを想像するでしょう。でも東大生は決してそんな覚え方はしません。
この場合、東大生なら、1日70単語を覚えます。1日目も2日目も、7日目までずっと、70単語ずつ見て覚えようとします。もちろん、1日10単語覚えようと思う時よりもじっくりと見ることができませんから、1日目の時点では70個見て5個も覚えられていないという状態かもしれません。
しかし、2日、3日たって英単語70個をざっと見ていくと、「あ、これって昨日も覚えた単語だな」「これって確か……」と徐々に考える時間が生まれます。毎日毎日実践していくことで、6日目・7日目が訪れる頃には、大体8割くらいの単語は覚えられるようになるのです。
「ちょっとずつ」より「一気に全部」がいい理由
なぜこんな覚え方をするのか。毎日10単語ずつ勉強した場合、1日目に覚えた単語を復習する時間がないので、1回覚えた切りで記憶に定着せず、忘れて終わり……となってしまいます。どんなに丁寧に覚えようと頑張ったとしても、10単語中3〜4単語くらいしか記憶には残っていないでしょう。
それに比べて、1日70単語を毎日勉強すると、すべての英単語を6日連続で6回忘れて、すべての英単語を7日連続で7回思い出すことになります。1単語に対して1回だけ10分眺めるよりも、1単語に対して30秒だけでもいいから毎日見ているほうが、圧倒的に記憶の定着率は高いのです。
ここからわかることは、「覚えるときに重要なのは、忘れることを前提にすることだ」ということです。じっくり丁寧に勉強する必要はなく、あやふやで大雑把でもいいから、どんどん覚えて、どんどん忘れた方が、記憶は定着しやすいのです。
暗記は「一度覚えて、忘れて、思い出す」という行為の繰り返しによって達成されるものであり、暗記が得意な人というのは、このサイクルが早く回る人のなのだと思います。であるならば、忘れることを前提にどんどん前に進んだほうがいいわけです。