2020年予定だった上場が遅れた理由
2016年、東芝が買収した米ウエスチングハウスで巨額の損失が発生した。損失発生のインパクトは決定的で東芝は債務超過に陥った。東芝は、成長事業の一つだった医療機器事業などの売却、人員削減などリストラを小出しに進めた。当時の東芝は、主要な収益源の一つだった東芝メモリーも売却せざるを得なかった。それほど東芝は追い詰められていた。
2018年6月、東芝は日米韓の企業連合に東芝メモリを売却し、キオクシアが発足した。当時、東芝とHOYAは50.1%を出資し、日本勢による過半出資を維持した。その背景には、世界のメモリー需要増加を取り込む面もあった。また、政府の意向も出資比率バランスに影響したとみられる。戦略物資である半導体企業を国内資本の支配下に置くことは、わが国の経済安全保障に決定的に重要だ。
その後、コロナ禍による“メモリー特需”という一時的な状況はあったものの、キオクシアの業況は不安定に推移した。2020年9月、米中対立の影響などからもあり、キオクシアは当初予定のIPOを延期した。テレワークなどの一巡によるメモリー需要の反動減で、2023年10~12月期まで5四半期連続で最終損益は赤字だった。
本社移転、4000人のリストラ、子会社の売却…
2023年12月、東芝は東京証券取引所から上場廃止になった。国内企業連合から資金を調達した日本産業パートナーズ(JIP)傘下で、事業運営体制の立て直しは本格化した。2024年5月、“東芝再興計画”と呼ばれる中期経営計画を公表した。
東芝が掲げた主な施策はリストラだ。本社機能は東京の浜松町から川崎市に移した。最大4000人の削減など固定費も削減した。不正会計発覚から9年が経過し、ようやく再建が本格始動したとの見方もあった。
2024年11月、日本特殊陶業に東芝マテリアルの売却を発表した。今回のIPOも含め、東芝は、獲得した資金をエネルギーなどの社会インフラ、防衛分野に再配分し、収益力回復、早期の再上場を目指している。東芝はキオクシア株の安易な安売りは避けたいが、早急な債務返済の優先度が上回ったのだろう。東芝は、キオクシアの早期上場を狙わざるを得なかったとみられる。