IPOを急ぐ東芝vs.利得重視の投資ファンド

一方、投資ファンドのベインは、中長期的なキオクシアの成長を重視しているようだ。キオクシアの業況の回復を待って、可能な限り高い価格で保有株を売却し利得を極大化する方針とみられる。過去約3年間、中国経済の減速、スマホ需要の飽和などで世界のNAND型フラッシュメモリーの市況は不安定だ。

2025年度以降、AI向けのデータセンター向けの先端型NAND型フラッシュメモリーの需要は増加するとみられる。市場予想の一つでは、2025年、NAND型フラッシュメモリーの市場規模は911億ドル(約14兆円)と24年比で50%伸びるとの見方もある。

2020年のIPO計画時点では、キオクシアの時価総額は2兆円程度に達するとみられた。ところが、その後、世界的なメモリー市況の軟化、主要投資家のキオクシア株需要の伸び悩みなど、今回のIPOで1~2兆円の時価総額を目指すことは難しくなった。ベインは、世界的なNAND型フラッシュメモリー市場の回復を待って、利益の極大化を狙ったようだ。今回のIPOで売却する株式数を減らした。キオクシアの主要株主の利害は必ずしも一致していない。

次世代メモリーを早急に実用化できるか

これから、キオクシアに求められるのは、AIなど先端分野のメモリー需要を取り込む体制を整備し収益力を強化することだ。DRAM事業から撤退したキオクシアは、現在、ストレージクラスメモリ (SCM)と呼ばれる、新しいフラッシュメモリーの実用化に取り組んでいる。

SCMとコンピュートエクスプレスリンク(CXL)とよばれる、新型のインターフェイスを結合することで、AIサーバー上の転送速度、電力消費量の抑制に寄与するとの期待は高い。SKハイニックスやサムスン電子、米マイクロンテクノロジーなども新型メモリーデバイスの実用化を重視している。

新しいメモリーユニットの製造を実現するため、キオクシアは金融機関などからの資金調達を増やし、設備投資を行うことが必要になるだろう。状況によっては、政府系の金融機関が、キオクシアに資金を融通してリスク負担を支援する可能性もありそうだ。次世代メモリーを実用化し業績拡大を目指すのが、当面のキオクシアの事業戦略の要諦だろう。成長の実現に、内外の半導体企業、AIスタートアップ企業などとの連携も必要だ。